2009/12/27

修学旅行は終わらない(村崎友)


【タイトル】修学旅行は終わらない
【著者名】村崎友
【発行年月日(初版)】2008年08月25日初版
【登場人物の年齢層】高校生
【概略】修学旅行の最終夜、一馬・ごっちゃん・甚太は、同級生がコピーした先生たちの見回り表を手に、いそいそと女子部屋へ。ところが見回り表はダミー!突然の先生の出現に、慌しく逃げ出す3人。すると廊下の窓に白装束の女の姿が…!?生徒たちの恋愛模様が交錯する、一度きりの修学旅行の夜。おとなしく眠ってなんかいられない!文庫書き下ろし。(「BOOK」データベースより)
【感想】ダヴィンチに掲載され興味を持ったのがきっかけ。
 高校生の修学旅行の最後の夜を舞台として繰り広げられる物語である。若干ミステリー的要素も含まれているが全体的に青春物語でサクッと読めるので息抜きに最適だと思う。
 こういった物語は共学だから可能なもので男子校であった自分にはこの小説の半分以下しか出来事がなかった。女子の存在の有無はこういった行事の内容の濃さに直結すると思う。まあ麻雀はあったものの……
【ランク】5.5
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年12月26日読了

2009/12/20

禿鷹の夜(逢坂剛)


【タイトル】禿鷹の夜
【著者名】逢坂 剛
【発行年月日(初版)】2000年5月10日初版
【登場人物の年齢層】30〜
【概略】信じるものは拳とカネ。史上最悪の刑事・禿富鷹秋—通称ハゲタカは神宮署の放し飼い。ヤクザにたかる。弱きはくじく。しかし、恋人を奪った南米マフィアだけは許せない。痛快無比!血も涙もひとかけらの正義もない非情の刑事を描いて、読書界を震撼させた問題作。本邦初の警察暗黒小説の登場。(「BOOK」データベースより)
【感想】ダヴィンチに警察のアウトロー小説として掲載されていたのがきっかけ。
 内容は期待していた通り刑事なのにも関わらず平気で暴力団に付け入ったチンピラを抹殺したりする正真正銘のアウトロー刑事を暴力団の視点から描かれた物語である。この刑事の特徴として、冷血、残酷、鋭い眼光を放つ、その他諸々。主人公の心理描写をほぼ排除しているので悪の孤高の人間という感じに読める。非常に憧れる存在として描かれている。(ただ力のある強いものに惹かれるだけなのだが)このシリーズは続編として「無防備都市」、「銀弾の森」、「禿鷹狩り〈上〉」、「禿鷹狩り〈下〉」があるようなので読み続けていきたい。
【ランク】6(暫定)
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年12月18日に読み終えた。

2009/12/16

糞神(喜多ふあり)


【タイトル】糞神
【著者名】喜多ふあり
【発行年月日(初版)】2009年8月1日(『文藝』09年秋)
【登場人物の年齢層】高校生
【概略】世界中の迷えるベイビーたちを救うため僕らの担任教師は、突然、学校を辞めた。センセーはクソなのか?それとも神なのか。 (「BOOK」データベースより)
【感想】『文藝』2009年秋号に掲載されていたのがきっかけ。
 よく知らないが文藝賞をとった作家が書いたということやタイトルが特徴的ということでもあり多少期待して読んだものの、特に特筆すべき事柄のない凡庸な内容であった。傍観者として世の中を楽しもうとしている自意識過剰気味の主人公による物語で、ラストで自分も小汚いホームレスと変わらないということを表現しているが、物語に面白さがない。次どうなるのかなという期待はくだらないラストで終わってしまった。

 文藝賞を受賞した作品を見てみると『野ブタ。をプロデュース』『メイド イン ジャパン』『人のセックスを笑うな』などが並ぶ。なんとなくこの文藝賞の傾向とか性質がわかった気がする。

追記:アマゾンのレビューを読む限り自分の認識はやや間違ってるようだ。
【ランク】5
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年12月16日に読み終えた。

2009/12/15

やんごとなき読書(アラン・ベネット/市川恵理訳)


【タイトル】やんごとなき読書
【著者名】アラン・ベネット
【訳者名】市川恵理
【発行年月日(初版)】2009年3月20日
【登場人物の年齢層】晩年
【概略】英国女王エリザベス二世、読書にハマる。おかげで公務はうわの空、側近たちは大あわて。「本は想像力の起爆装置です」イギリスで30万部のベストセラー小説。 (「BOOK」データベースより)
【感想】おそらく朝日新聞書評に掲載されていたのがきっかけ。
 内容は読書の愉しさに気付いた晩年の女王による物語。現代のイギリスの女王や宮殿の明るい諷刺である。
 名前すら知らない作家名がたくさん出てきたり、またイギリスの女王についてや宮殿のシステムをほとんど知らないこともありこの作品がどのくらい秀逸な風刺かは判断できない。作家名やその辺の事情を知っていた方がよりこの物語を楽しめるしかし、読書という行為についての考察は読んでいておもしろい。とりわけ、読書の魅力について(「読書の魅力とは、分け隔てをしない点にあるのではないかと女王は考えた。文学にはどこか高尚なところがある。本は読者がだれであるかも、人がそれを読むかどうかも気にしない。すべての読者は、彼女も含めて平等である。文学とはひとつの共和国なのだと女王は思った。」)にはなるほどな、と頷いた。

 しかし風刺作品は風刺されている事柄についての知識がないとさほど楽しめないな、と思う。この作品は諷刺であり温かい物語でもあるのである程度楽しめるが。日本人による風刺作品を探してみるか。
【ランク】6
【読書中メモの総覧】▼知らない作家が多すぎる。ディケンズとナボコフぐらいしか知らない。▼イーベイが出ていることから時代設定は現代。
【備考】2009年12月15日読了。

2009/12/06

この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 下(白石一文)


【タイトル】この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 下
【著者名】白石一文
【発行年月日(初版)】2009年1月26日初版
【登場人物の年齢層】成人
【概略】スクープ記事は大反響を呼ぶが、上層部から圧力がかかり、編集部内の人間関係もねじれ出す。もつれて膠着する状況のなかで、カワバタは、ある運命的な出会いへと導かれる。まるであらかじめ定められていたかのように。思考と引用をくぐり抜けた後に、「本当のこと」が語られる。現代を描き続ける著者が、小説という表現の極限を突き詰めた渾身作。いよいよ完結。(「BOOK」データベースより)
【感想】下巻は上巻よりも抽象度の高い内容が多かった。物語のラストは非常にきれいだった。
 下巻にてタイトルにある「この胸に深々と突き刺さる矢」の正体について語られている。その文章とその前の文章を引用したいと思う。
『僕たちは今の中にしか生きられない。歴史のなかに僕たちはもうどこにもいないのだ。過去のなかにもこれからの過去にも僕たちはどこにもいない。今、この瞬間の中にしかいない。この瞬間だけが僕たちなのだ。時間に欺かれてはならない。時間に身を委ねたり、時間を基軸にして計画を練ったりしてはならない。そういう過ちを犯した瞬間、僕たちは未然のものとなり、永遠に自らの必然から遠ざけられてしまう。そして、影も形もない希望や取り返しのつかない事柄への後悔や懺悔の虜となり果て、偽りの神の信徒となるほかに生きる術を失ってしまうのだ。
 この胸に深々と突き刺さる時間という長い矢、偽りの神の名が刻まれた矢をいまこそこの胸から引き抜かねばならない。この矢を抜くことで、僕たちは初めてこの胸に宿る真実の誇りを取り戻すことができるのだから・・・・・・』
 上巻の経済格差の問題については理解することが比較的容易かったが、下巻の時間や概念的な抽象度が高まるにつれてただなんとなく鵜呑みにしてしまう回数が多かった。上記の文章についても、真実の誇りが何なのかわからない。やはり一回読むだけでは概念的な論述は理解しにくい。(最近思い始めたのがそのような概念的な話に意味はあるのか?)正直上巻の経済格差についての問題でお腹いっぱいである。経済格差の問題は自分のなかで考察することができたが下巻は・・・
 次は純粋に物語を楽しむ本を読もう。
【ランク】6
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年12月4日に読み終えた。再読を促す。

2009/12/01

この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 上(白石一文)


【タイトル】この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 上
【著者名】白石一文
【発行年月日(初版)】2009年1月26日初版
【登場人物の年齢層】成人
【概略】「週刊時代」の編集長、カワバタ・タケヒコは、仕事をエサに、新人グラビアアイドル、フジサキ・リコを抱いた。政権党の大スキャンダルを報じる最新号の発売前日、みそぎのつもりで行った、その場限りの情事のはずだった。世俗の極みで生き続けた男が、本来の軌道を外れて漂い始める、その行き着く先にあるものは?白石一文が全身全霊を賭けて挑む、必読の最高傑作。(「BOOK」データベースより)
【感想】朝日新聞に掲載されている書評を読んだのと「僕の中の壊れていない部分」を読んだのがきっかけ。
この作品も「僕の中の…」と同様に、物語の文章と文章の間に筆者の主張が表れた評論的な文章が組み込まれている。ただ「僕の中の…」と比べて物語は物語としてより確立しているので読みやすい。また、この上巻は経済格差について取り上げられているので具体性が高く「僕の中の…」で取り扱っている生と死よりも主張が理解しやすいと思う。
 この本の主張のなかで一番心に残ったのは次の文章である。
「ナカヤマのような男は、例えば自分が秀才だという現実が、彼より勉強のできない多くの人間の力によって支えられている事がわかっていない。美人が自分の力だけで自惚れているようなものだ。美人が美人でいらえるのは、彼女より醜い女性が大勢いるからにすぎない。
 ナカヤマは、オグラのような存在に依存する事でようやく自分の豊かさが実現しているという相対的認識を持っていない。少数のブルジョワは大多数のプロレタリアートによって作られる。その事実を失念したものはいずれ粛正の憂き目にあってしまうのだ。」非常に唸ってしまった。全く持ってその通りである。他にも主張があったが、私はこの文章がかなり心に残った。はやく下巻を読まなければ。
【ランク】-(下巻を読み終えてから設定)
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年11月30日に読み終えた。

2009/11/28

グレート・ギャッツビー(フィッツジェラルド/小川高義訳)


【タイトル】グレート・ギャッツビー
【著者名】フィッツジェラルド
【訳者名】小川高義
【発行年月日(初版)】2009年9月20日初版
【登場人物の年齢層】成人
【概略】 絢爛豪華な邸宅に贅沢な車を持ち、夜ごと盛大なパーティを開く男、ギャッツビーがここまで富を築き上げてきたのは、すべて、かつての恋人を取り戻すためだった。だが、異常なまでのその一途な愛は、やがて悲劇を招く。過去は取り返せる—そう信じて夢に砕けた男の物語。(「BOOK」データベースより)
【感想】「ノルウェイの森」で登場して興味をもったのがきっかけ。
 一度村上春樹訳のを読み始めたものの、途中で挫折してしまったので今回光文社から出てた新訳で再挑戦した。アマゾンのレビューにも書かれていたが、こちらの訳の方が村上春樹訳よりも読み進めやすい印象だった。(ただ村上春樹訳は全て読めてないので何とも言えないが)
 内容は富を成した男のかつての恋人への一途な思いによって破滅していく物語である。一度読んだ限りではよくありそうな小説+αという印象しかなかった。文章の抽象的なラストなどは凡庸な小説よりもすばらしいなと思えるが。解説を読む限りさまざまなコントラストや文章の暗喩が仕掛けられているようだが、やはり解説を読まないと面白さが理解できないあたり、まだまだ読むのが早すぎたかもしれない。村上春樹訳も読まなければ。
【ランク】6?
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年11月26日に読み終えた。

2009/11/18

僕のなかの壊れていない部分(白石一文)


【タイトル】僕のなかの壊れていない部分
【著者名】白石一文
【発行年月日(初版)】2005年3月20日文庫初版
【登場人物の年齢層】成人
【概略】見えるものばかり追いかけてばかりいたら、人はどんなことにでも絶望するしかなくなってしまう。過去のトラウマにより、驚異的な記憶力を持つ、非凡な青年。彼には、才色兼備のスタイリストの恋人と、子持ちのバーのママである愛人、SMプレイ相手の人妻という女性関係があり、さらに家庭教師の元生徒だった少女と、たまに泊まりに来る弟のような青年という疑似家族がある。愛について、生と死について、突き詰めて考えずにいられない彼の内面を通して、作者は「何が一番大切なのか」を問いかける。 デビュー作『一瞬の光』で注目を集め、村上春樹にも比較される異才の最高傑作。書き下ろし。
【感想】著者の他の作品を朝日新聞書評で読んだのがきっかけ。
 出版社勤務の主人公が自身の人間関係を通じて生死について考える物語・・・といったところか。正直このような形式の小説は読んだことがない。実質の物語の量と主人公による自問の量があまり変わらない。読んでいてときどき今自分は評論文を読んでいるのか、と思わせるほどの自問と物語のバランスである。
 このような哲学的で難易度の高い小説を一度通読しただけで感想を出すのはやや安直である。さらに、小説という形式をとっているのでどこを読めば主張の要旨がわかる、といったことがない。(あるかもしれないが今のところ分からない)そのためもう一度再読をする必要がある。
  ダ・ヴィンチ09年03月号において著者の白石一文は言いたいことを何とかして読ませたいから小説の形式をとっている、クスリに味をつけている感じ、と述べている。著者の主張を理解するにはやはり一回だけの通読では不可能なのでもう一度読もうと思う。
【ランク】6?
【読書中メモの総覧】▼物語を読んでいる感じがしない
【備考】2009年11月17日に読み終えた。再読必須。

2009/11/12

犯人に告ぐ(雫井脩介)☆


【タイトル】犯人に告ぐ
【著者名】雫井脩介
【発行年月日(初版)】2004年7月ハードカバー初版
【登場人物の年齢層】3,40代
【概略】闇に身を潜め続ける犯人。川崎市で起きた連続児童殺害事件の捜査は行き詰まりを見せ、ついに神奈川県警は現役捜査官をテレビニュースに出演させるという荒技に踏み切る。白羽の矢が立ったのは、6年前に誘拐事件の捜査に失敗、記者会見でも大失態を演じた巻島史彦警視だった—史上初の劇場型捜査が幕を開ける。第7回大藪春彦賞を受賞し、「週刊文春ミステリーベストテン」第1位に輝くなど、2004年のミステリーシーンを席巻した警察小説の傑作。(「BOOK」データベースより)
【感想】「ダ・ヴィンチ」の特集、及び映画を昔見たのがきっかけ。
劇場型犯罪に対し劇場型捜査で対抗し、犯人を追い詰めていく物語である。
 非常に興奮し、面白かった作品だった。読んでいて久しぶりに早く先が読みたいと思った作品である。
 まず読んでいて印象に残ったことは、非常にリアリティに溢れ、人間味があることである。平凡な小説は主人公の心情描写にどこか小説ならではの心情、という部分が見受けられることがある。例えばもっと嫉妬するような場面でも異様にクールだったり、こんなに思惑通りに進むわけないだろ、という場面が見受けられることがある。
 しかし、この小説は人間の心情や欲望に忠実である。上司が女性の気を引くために捜査情報を流したり、犯人と思わしき人物を発見して手が震えたり。極めつけは主人公が犯人逮捕失敗の記者会見での記者達の執拗な責めに逆ギレして「他人の子なんてどうやったって感情移入に限界があるんだ!」と言ってのけたり。確かに自分の子供と殺された子供には感情移入に差が生まれるのは当然の事なのだが、それでも普通は口にしない。人間らしさが滲み出ている。これほど人間味のある小説だとは思わなかった。
 さらに、捜査情報をニュース番組にリークしている人物をあぶり出す場面も非常にわくわくした。私用のために捜査の邪魔になるような行動をとった上司へ一泡(そのレベルを超えてるとも言えるが)吹かせるのは読んでいて面白かった。
 だが、一番印象に残るのは犯人に対してニュース番組で主人公が逮捕へ終止符を打つときに言う台詞である。以下引用。
『[バットマン]に告ぐ。』『お前は包囲された。』『多少時間がかかったが、我々はようやくお前を追いつめた。逮捕はもう時間の問題だ。逃げようと思うな。失踪した人間は真っ先にマークする。今夜は震えて眠れ。』『手紙を落とした失態を悔やんでも遅い。余興は終わった。これは正義を全うする捜査であり、私はその担い手だ。お前は卑劣な凶悪犯であり、徹底的に裁かれるべき人間だ。それをわきまえなかったお前の甘さが致命的だったと言っておく。正義は必ずお前をねじ伏せる。いつかは分からない。おそらく正義は突然、お前の目の前に現れるだろう。首を洗ってその時を待っていろ。以上だ。』この言っている情景を想像するだけで背筋が凍るような思いがする。映画版をもう一度見てみよう。
 現実的な内容かと言ったら疑問符がつくが、ミステリーというものはそういうものであり、またその枝葉な部分を超越するクオリティの高さと面白さがあった。映画をもう一度見ようと思う。
【ランク】8
【読書中メモの総覧】-
【備考】2009年11月9日に読み終えた。

2009/11/11

キャッチャー・イン・ザ・トイレット!(伊瀬勝良)


【タイトル】キャッチャー・イン・ザ・トイレット!
【著者名】伊瀬勝良
【発行年月日(初版)】2009年9月6日初版
【登場人物の年齢層】 中学・高校生
【概略】ある新人作家がweb上で発表した小説「OM」(大人の事情により略称)は、口コミやネットでの書き込みで一気に広まり、瞬く間に絶賛を浴びた。この「知る人ぞ知る」名作に、出版各社からのオファーも殺到。大幅な加筆修正の末、性別不問・全世代対応の青春文学が、ここに待望の書籍化。忘れられない「あの日の感情」がここにある。(「BOOK」データベースより)
【感想】どこかの書評に載っていたのを読んだのがきっかけ。
 主人公の秘密をいじめられっ子の女子に知られ、そこから復讐劇に巻き込まれ、最後には罪をカミングアウトして罪を償おうとする、という概略であるが、正直リアリティは皆無でファンタジー小説である。(著者もファンタジー小説であると述べている)主人公が犯した行動をカミングアウトする選択肢なんてまずあり得ないし、その後に対象となった女子に話しかけられるのも不可思議である。同窓会に呼ばれるのもあり得ない。
  この小説はリアリティ云々ではなく、著者が造り上げた世界に嵌まってみる、という読み方が正しい。決して実際は何々などの考えを持ってはいけない。実際にこうだったら面白いな、という感じである。いい気分転換になったと考えよう。

  タイトルがサリンジャーの「ザ・キャッチャー・イン・ザ・ライ」を彷彿させるな、と一瞬思った。若い青年と一人称の語りという共通点も有ったな。
【ランク】4
【読書中メモの総覧】 -
【備考】200911月11日読了。

2009/11/05

ニューナンブ(鳴海章)


【タイトル】ニューナンブ
【著者名】鳴海章
【発行年月日(初版)】2002年6月28日初版
【登場人物の年齢層】成人
【概略】一線を踏み超えた警察官は、正義に到達できるか。かつて目の前に突きつけられた銃口。撃鉄が落ち、眉間を貫いた金属音—。善と悪の境界を見失うことの絶対的な孤独。撃つことは「赦し」なのか。衝撃の書下ろし長編小説。 (「BOOK」データベースより)
【感想】「ダ・ヴィンチ」の警察小説の特集を読んだのがきっかけ。
 自分の正義に固執するばかりに法律を逸して暴走する警察官の物語・・・という概略に惹かれて読み始めたはずだったのに、内容はコネで入社した若干アウトローな警官の自己の問題と正義を求めるというもので自分が期待した物語ではなかった。さらに、終わりかたがあっけない。暴走した連続殺人犯に殺されて終わりというなんとも後味の悪い終わりかただった。確かに事件がどうなったかはこの小説の本筋とは関係ないのかもしれないが・・・
 警察官が所持している拳銃の名前が「ニューナンブ」ということがわかったくらいだった。
【ランク】4
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年11月5日に読み終えた。

2009/11/03

O嬢の物語(ポーリーヌ・レアージュ 澁澤龍彦訳)


【タイトル】O嬢の物語
【著者名】ポーリーヌ・レアージュ
【訳者名】澁澤龍彦
【発行年月日(初版)】1992年6月4日初版
【登場人物の年齢層】成年
【概略】パリの前衛的な出版社ポーヴェルから1954年に刊行された本書は、発表とともにセンセーションを巻き起こし、「ドゥー・マゴ」賞を受賞した。女主人公の魂の告白を通じて、自己の肉体の遍歴を回想したこの書物は、人間性の奥底に潜む非合理な衝動をえぐり出した、真に恐るべき恋愛小説の傑作と評され、多くの批評家によって賞賛された。(文庫裏表紙)
【感想】雑誌に「完訳 Oの物語」の広告が載っていたのがきっかけで読み始めた。amazonのレビューを見る限り澁澤龍彦訳の方が物語として読みやすいという印象を受けたので澁澤龍彦訳の方を読んだ。
 内容は自ら自由を放棄して奴隷状態になった女性の物語である。直接的な描写はほとんどなく、オブラートに包まれた描写で描かれている。あとがきでも触れられているが、官能の興奮の描写は極力排除されている。だから村上龍の「エクスタシー」を読むような気持ちで読み始めた自分はやや場違いな感じがした。また、文全体からも非常に高尚な感じがする文体で描かれている事も驚きの一つである。非常に想像力を使う描写も多い。
 文庫裏表紙にも書かれているが、このOの行動は非常に非合理的な衝動である。何らかの事情で余儀されなくなったのならまだしも、結果的に自らこのような状況に入り込むのは世間一般の人間からすれば非常に馬鹿げた行動である。だがやはりこの行動は理屈云々のものではない。理解できる者には非常に美しい小説といえるのかもしれないが、自分のような理解できないものにとっては非常に痛々しく、理解不能な小説である。鞭を打ったり、焼ごてで自分の名前を刻むという行動は自分にとっては欲望を満たすようなものではないと思う。村上龍の「エクスタシー」のほうが断然理解できる。ここまで来ると自分自身の好みの問題となるのだろうか。
 「完訳 Oの物語」では続編である「再びロワッシーへ」も収録されているらしいが、購入してまで読もうとは思わない。
 17年前に出版された書物という事で漢字が難しくやや読み辛かった。
【ランク】6.5α
【読書中メモの総覧】-
【備考】2009年10月25日に読み終えた。再読を促す。

2009/10/30

ロコモーション(朝倉かすみ)


【タイトル】ロコモーション
【著者名】朝倉かすみ
【発行年月日(初版)】2009年1月25日初版
【登場人物の年齢層】子供〜40代
【概略】小さなまちで、男の目を引く「いいからだ」を持て余しつつ大人になった地味な性格のアカリ。色目を使われたり「むんむんちゃん」などのあだ名をつけられたりしない静かな生活を送りたくて、大きなまちに引っ越し、美容関係の仕事を見つけた。しかし、新しくできた屈託のない親友、奇妙な客、奇妙な彼氏との交流が、アカリの心の殻を壊していく—。読む者の心をからめ取る、あやうくて繊細でどこか気になる女のひとの物語。(「BOOK」データベースより)
【感想】昔どこかの雑誌か書評に載っていたのがきっかけで読み始めた。
 感想が浮かばないというのが感想である。話は一貫した筋かあるのだが、そこから何か考えやこれといった印象が浮かぶ訳でもない。このような抽象的描写がかなりの核を占めている作品は感想が難しい、と言い訳する。言い換えればそれだけの小説なんだ、とも言えるがさすがにそれは傲慢だろう。
 おそらくこのような作品は共感を呼べるか否かで評価が別れるのではないかと思う。残念ながら今の自分にはあまりにも理解できない行動が多すぎて共感は抱けなかった。こういう心情を理解できない辺り、まだまだ人間的に未熟なんだろうか。
【ランク】5
【読書中メモの総覧】-
【備考】2009年10月30日に読み終えた。

2009/10/27

八月の路上に捨てる(伊藤たかみ)


【タイトル】八月の路上に捨てる
【著者名】伊藤たかみ
【発行年月日(初版)】2006年8月30日初版
【登場人物の年齢層】30代
【概略】暑い夏の一日。僕は30歳を目前に離婚しようとしていた。現代の若者を覆う社会のひずみに目を向けながら、その生態を軽やかに描く。第135回芥川賞受賞作ほか1篇を収録。 (「BOOK」データベースより)
【感想】「O嬢の物語」の感想を考えている間に読んだ。あっという間に読み終えた。
喪失をテーマに主人公の離婚までの過程などが描かれているが内容はいたって平凡で特に感想が思い付かなかった。それよりも表題作のほかに掲載された作品の『貝からみる風景』がユーモアがあって面白かった。
どうやらこの作品は芥川賞受賞作品のようだ。ちょっと選考基準が分からないし、あまりにサラッと流れて重みが感じられないと思ったのだが。
【ランク】5
【読書中メモの総覧】-
【備考】2009年10月26日に読み終えた。

2009/10/15

向日葵の咲かない夏☆ (道尾秀介)


【タイトル】向日葵の咲かない夏
【著者名】道尾秀介
【発行年月日(初版)】2008年8月1日文庫版
【登場人物の年齢層】小学生
【概略】夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。きい、きい。妙な音が聞こえる。S君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」と訴えながら。僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追いはじめた。あなたの目の前に広がる、もう一つの夏休み。(「BOOK」データベースより)
【感想】「O嬢の物語」の間に読んだ。(新型インフルエンザで出席停止中)1日で読み終えた。またブックオフで購入。以前朝日かどっかの書評に載っていたのをきっかけに読んでみた。
 感想はまず、衝撃的だった。というのか小説を読んだあとにあのようにいてもたってもいられないという気分になったのは初めての経験である。部屋のなかを意味もなくうろうろしてしまった。本格ミステリであるとは思っていたが、このような作品だとは思っていなかった。
 最初は比較的普通であった。主人公ミチオが友人宅で友人の死体を発見し、学校で報告するが警察が見に行ったときには既に消えている………
 おかしくなりはじめたのは死んだはずの友人が蜘蛛となって蘇ってからである。そんなことが有り得ていいのか、と思いつつも進んでいく。以下、物語の出来事、特に印象的な場面と私の心情。
トコ婆さん怪しい念仏(非科学的だがまあいいか)、蜘蛛となった友人を見たスミダさんの対応(そんな簡単に納得していいのかよ)、ミカの三歳とは思えぬ発言(異常に大人びてるな)、岩村先生の変態性癖発覚(加速する狂気だなぁ、でも小説としての問題はない)、女郎蜘蛛を友人がいるケースに入れる(加速する狂気だなぁ、でも小説としての問題はない)、ミチオが寝ている妹のミカの指を口に含む(どんどん狂気が加速するな)、〔やや飛ぶ〕人蜘蛛を潰す(えぇー、潰してええんかい)、潰したその蜘蛛をミカが食べる(はぁ!?、食べる方もあれだが食べさせるミチオもなんなんだ、〔ここからノンストップで訳が分からなくなり始める〕)、名探偵コナン顔負けの推理を始める(ミチオ小4かよ)、殺されたトコ婆さんが生まれ変わった三毛猫だと分かる(トコ婆さんも人間じゃないのか)、後ろの席のスミダさんが百合の花だと分かる。(訳が分からない) 、ミカがトカゲだと分かる(意味不明)、ミチオがお爺さんを殺す(ありかよ)、お爺さんがカマドウマとして復活する(意味不明)、友人をミチオが自殺さ
せたことが分かる(最初からかよ)、ミチオが家に火をつける(加速する狂気だがいよいよ訳が分からない)、家族みんなが平然と会話して終わる(わけわかめ)

 といった流れである。ダラダラ書き続けたのは出来事とそれに対する自分の心情を書き記しておきたかったからである。それほどこの作品に対する心情の変化が激しかったからだ。
 読み終えた当初は全くもって訳が分からなかったし、落ち着いていられず部屋の中をうろうろしていたが、落ち着いて解説を読んだり読み返してこの謎を考えてみると、これはすなわちミチオの誇大妄想なのか、という考えに落ち着いた。解説を読んでみても主人公のねじれた主観、誤解幻想云々が話題にされていることや、ネット上の解説を読んでみても間違ってはいないと思う。それにしても本格ミステリというものはこういうものも含むのか。イマイチこのジャンルのことがよく分からない。
また、これはネット上の解説をみて知ったのだが、最終的にはミチオを助けるために両親は死に、ミチオは一人になったことが最後の描写「太陽は僕たちの真後ろに回り、アスファルトには長い影が一つ、伸びていた。」から分かる。この描写には違和感を覚えていたがそういう意味だったとは。確かに親戚がミチオを引き取るということが書かれていることからも分かる。
 解説でも述べられていたが、主人公のねじれた主観を本格ミステリにまで仕立てあげるのはかなりの文章力がいる。この道尾秀介という作家は並外れた文章力がある。
 また、本筋ではないと思いつつも「加速する狂気」というキーワードをテーマに本書に着目したい。この「加速する狂気」というキーワードは「向日葵の咲かない夏」には全く出てこず、関係ないが最近「加速する狂気」に纏い付かれた行動が描かれている小説を中心に読んでいるなか、本作品も例外なく、むしろ予想以上にその人物や行動が見受けられた。岩村先生の変態性癖はもちろん、お爺さんの足の骨を折る行動、ミチオが女郎蜘蛛を友人蜘蛛がいるケースにいれたり、お爺さんを殺したり。ミチオは行動のほとんどがが「加速する狂気」に纏い付かれたと言えなくもない。こうした「加速する狂気」に纏い付かれた人物や行動を見るのは非常に面白い。その点でもこの小説は秀逸である。ただミチオが10歳という設定はかなり無理があると思うが、母親からの影響と考えれなくもないから許容範囲だろう。
 朝日書評や解説には好き嫌いの別れる作品だと書かれてあった。私は嫌いではない。小説の新しい可能性を見してもらった極めて面白く秀逸な作品であった。

今気付いたがミチオは著者の名前じゃないか。全然気付かんかった。
【ランク】8.5
【読書中メモの総覧】▼加速する狂気▼奇想天外な場面▼ミカが三歳?▼ミチオも変態▼ミチオも小4?▼引きずり込まれる▼予想を裏切る▼ノンストップで訳が分からない▼人じゃない!?▼精神に干渉する(初めての体験)▼衝撃的▼カオスすぎる
【備考】2009年10月12日読了。再読必須。

2009/10/05

君たちに明日はない(垣根涼介)


【タイトル】君たちに明日はない
【著者名】垣根 涼介
【発行年月日(初版)】2007年10月1日文庫版
【登場人物の年齢層】30-40代
【概略】「私はもう用済みってことですか!?」リストラ請負会社に勤める村上真介の仕事はクビ切り面接官。どんなに恨まれ、なじられ、泣かれても、なぜかこの仕事にはやりがいを感じている。建材メーカーの課長代理、陽子の面接を担当した真介は、気の強い八つ年上の彼女に好意をおぼえるのだが…。恋に仕事に奮闘するすべての社会人に捧げる、勇気沸きたつ人間ドラマ。山本周五郎賞受賞作。(「BOOK」データベースより)
【感想】ブックオフで衝動的に購入。4、5時間程で読了。久しぶりのエンターテイメント小説である。「O嬢の物語」の合間に読もうと思っていたがあっという間に読み終えてしまった。
首切り請け負い会社につとめる主人公を中心に巡るヒューマンドラマを描いている。
この著者の作品を読むのは初めてだが、非常に魅力的な人物を描いている。主人公にしても、何かよく分からないが惹き付けられる部分があった。また、曖昧な描写はなく読みやすい。表現に頭を悩ませることはなかった。結構露骨な性的描写があることは意外だったが、人間味を帯びていて悪くはないと思う。こうやって何冊かにいっぺんエンターテイメント寄りの小説を読むのはいい息抜きになるし、読書の楽しみの一つを再認識できると思う。
この作品の続編に「借金とりの王子」という作品があるらしいので機会があれば読んでみたい。
【ランク】6.5
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年10月5日に読み終えた。

2009/09/30

エクスタシー2(村上龍)


【タイトル】エクスタシー
【著者名】村上龍
【発行年月日(初版)】1995年4月25日(文庫)
【登場人物の年齢層】20〜30代
【概略】ニューヨークでホームレスをしているヤザキとカタオカケイコ、レイコによる麻薬とセックスを絡めた快楽の話と主人公のミヤシタによる物語(by me)/「ゴッホがなぜ耳を切ったか、わかるかい」とそのホームレスの男は僕に日本語で話しかけてきた。ニューヨーク、ダウンタウンのバウアリー。男は、「ここに電話してオレと会ったことを言えば、お金を貰えるよ」と紙切れをくれた。東京のケイコと、パリのレイコと男、恍惚のゲームは果てしなく繰り返される。国際都市を舞台に、人間の究極の快楽を追求した長編小説。(「BOOK」データベースより)
【感想】以前読んだ本の再読。一回目の感想。
 予想はしていたが二回読んでもやはりこの小説はインパクトが強い。麻薬を服用しているときの描写やエックスを服用してのSMの描写など、村上龍は絶対に麻薬を服用したことがあるに違いないと思わせる内容である。よく麻薬の使用を撲滅使用とするときに「ダメ。ゼッタイ。」というキーワードが浮かんでくるが、小説中のような状態が得られるのであれば、体という代償を払ってでも服用に価値を見い出せると思う。特にエックスに関しては中毒性もある程度低いのではないか。そこまで思わせるような麻薬の描写だ。
また、SMの描写も羨ましいと思わせる強烈な内容である。一度体験してみたいなと本気で思わせる。

 一回目にはあまり着目していなかったが、最後にミヤシタが破滅に向かう途中で様々な情景がフラッシュバックする場面がある。段々句読点が無くなっていき最後に句読点なしで一気に進む文があるが、なんというか流れというのか、とにかくすばらしい描写であった。脳内でビートが刻まれていったように感じた。

 この小説は三部作のうちの一つであることをネットから知った。残りの「メランコリア」「タナトス」が早く読みたいが、その前に「O嬢の物語」を読まなければ。
【ランク】7.5
【読書中メモの総覧】なし
【備考】二回目。2009年9月30日に読み終えた。再読を促す。

2009/09/16

ノルウェイの森 上・下(村上春樹)





【タイトル】ノルウェイの森 上・下
【著者名】村上春樹
【発行年月日(初版)】1991年4月15日(文庫)上・下
【登場人物の年齢層】大学生
【概略】暗く重たい雨雲をくぐり抜け、飛行機がハンブルグ空港に着陸すると、天井のスピーカーから小さな音でビートルズの「ノルウェイの森」が流れ出した。僕は 1969年、もうすぐ20歳になろうとする秋のできごとを思い出し、激しく混乱していた。——限りない喪失と再生を描き新境地を拓いた長編小説。(著者からの内容紹介)上/あらゆる物事を深刻に考えすぎないようにすること、あらゆる物事と自分の間にしかるべき距離を置くこと—。あたらしい僕の大学生活はこうして始まった。自殺した親友キズキ、その恋人の直子、同級生の緑。等身大の人物を登場させ、心の震えや感動、そして哀しみを淡々とせつないまでに描いた作品。(「BOOK」データベースより)
【感想】村上春樹作品に挑戦。
 予想以上に読みやすくて驚いた。今まで村上春樹作品は言い回しが多くて読みにくい、という印象があったが、この作品はそんなことはなく、上下あわせて二日ほどで読み終えてしまった。
 内容は大学生の恋愛物語である。この作品の主人公であるワタナベはかなりクールといえばいいのか、よくありそうな「大学生ライフを楽しむぞ!」という感じの大学生ではなく、冷淡な感じの大学生である。「…僕はそれほど強い人間じゃありませんよ。誰にも理解されなくていいと思っているわけじゃない。理解しあいたいと思う相手だっています。ただそれ以外の人々にはある程度理解されなくても、まあこれは仕方ないだろうと思ってるだけです。あきらめているんです。」というような人物である。喪失というキーワードのもと、親友や恋人を亡くす哀しみや、生活していくなかでの思いが綴られている。

 正直この作品は感想が難しい。読了後思ったことは多々あるが、文章にすることができない。それは未熟な国語の能力のせいでもあるが、感想がぼんやりしているのだ。試みたものの、いまいちしっくり来ない。ただこれまで読んだなかでかなり優秀な作品であることは間違いないのだが。もどかしい。とか言っているがまあ逃げですね。
主人公がフィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」を愛読していたので、読んでみたいと思う。
【ランク】7
【読書中メモの総覧】予想以上に読みやすい/憧憬
【備考】2009年9月15日に読み終えた。

2009/09/12

動物農場(ジョージ・オーウェル 高島文夫訳)☆


【タイトル】動物農場
【著者名】ジョージ・オーウェル
【訳者名】高島文夫
【発行年月日(初版)】1972年8月30日
【登場人物の年齢層】-
【概略】一従軍記者としてスペイン戦線に投じた著者が見たものは、スターリン独裁下の欺瞞に満ちた社会主義の実態であった…。寓話に仮託し、怒りをこめて、このソビエト的ファシズムを痛撃する。(「BOOK」データベースより)
【感想】朝日新聞の別刷りの書評を読んでこの本を読もうと思い、今回図書館より借りて読んでみた。
 表題作である「動物農場」は寓話の形式をとったスターリン体制に対する強烈な風刺である。私は今までなにかを風刺した作品を読んだ記憶があまりないので、風刺というものがどのような感じの物語なのかイマイチよく分からなかったが、今回この作品を読んだことで風刺というものがどういうものか理解した。
 まず最初に読んでいて思ったことは、独裁体制がどのようにしてでき、いかに恐ろしいものであるかということである。特に罪を名乗り出た動物がその場で処刑される場面は引きずり込まれると同時に身の毛もよだつ思いがした。
 また、革命というものの安易さである。今まで私は民衆による革命は必ずといってもいいほど状況がよくなり、よい結果をもたらすと思っていたが、「動物農場」のように結果的に大して変わらないということもあり得るのだな、と思った。また、今まで優秀なリーダーが一人いれば国は必ずいい方向に導いてくれる、という考えが自分の中にあった。しかし、考えてみれば甚だ愚考で、そのような状況は独裁政治につながりやすいことも分かった。考えを改めなければ。
 前述の通り、「動物農場」は強烈な風刺である。各々の登場人物は実在の人物に当てはめることが出来る。例えば革命を予言したメージャー爺さんはレーニン、革命後に独裁者となったナポレオンはスターリン、元々の農場の持ち主であるジョーンズ氏はロシア皇帝…と。また、違った対応関係も当てはめることが出来ると解説で述べられている。
 私はスターリン体制の時のロシアの状況をよく知らないのだが、解説によってある程度把握した。この先この時代のロシアの情勢を学習することでより一層楽しめると思う。

 ロシア革命を風刺した極めて秀逸な寓話であった。解説に「動物農場」後を描いたジョージ・オーウェルの作品に「1984」があるらしいので、読んでみたいと思う。解説にジョージ・オーウェルは行動の作家であると述べられている。現に、自分が現地に赴き見聞きし体験した事を物語にしている。この本にもいくつか収録されていた。その点でもすごいな、と思った。
【ランク】7.5+α
【読書中メモの総覧】独裁の恐怖 身の毛もよだつ 行動の作家
【備考】2009年9月11日に読み終えた。再読を促す。

2009/09/07

時をかける少女(筒井康隆)


【タイトル】時をかける少女
【著者名】筒井康隆
【発行年月日(初版)】1976年2月28日初版(文庫)
【登場人物の年齢層】高校生
【概略】放課後の誰もいない理科実験室でガラスの割れる音がした。壊れた試験管の液体からただようあまい香り。このにおいをわたしは知っている—そう感じたとき、芳山和子は不意に意識を失い床にたおれてしまった。そして目を覚ました和子の周囲では、時間と記憶をめぐる奇妙な事件が次々に起こり始めた。思春期の少女が体験した不思議な世界と、あまく切ない想い。わたしたちの胸をときめかせる永遠の物語もまた時をこえる。(「BOOK」データベースより)
【感想】細田守が監督を務めた映画「時をかける少女」の原作である。
 文章を読んでなんとなく昭和な感じの学生の印象を受けたから発行年を見たら初版が昭和51年2月28日と書かれているではないか。昭和51年といえば1976年になる。そんなに古い小説であったのか と驚いた。
 内容については、話の内容は違うので直接比べるのは筋違いかもしれないが、正直なところ細田守監督のアニメ映画の方がいい。新装版の文庫は238ページあるのだが、「時をかける少女」が占める ページは115ページ。文庫の半分しか話がなく、短すぎる。あっという間に終わってしまうので、物足りないのである。時代が古いのに対しアニメ映画の方が現代で受け入れやすいからというのもあるかもしれない。
 Wikipediaによると、原作は1967年に出ているようである。また、『筒井の作品には珍しい、正統派ジュブナイルである。発表から40年以上たった現在でも広く親しまれており、何度も映像化されている。ただし、筒井自身は児童向き作品が資質に合わなかったようで、当時の日記(『腹立半分日記』に収録)で、「書くのが苦痛でしかない」といったことを書いている。』と書かれており、またこの作品を代表作のひとつと思われている事に嫌悪しているらしい。
 とりあえずもう一度映画を見るか。
【ランク】5
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年9月6日に読み終えた。

2009/09/06

スカイ・イクリプス Sky Eclipse (森博嗣)


【タイトル】スカイ・イクリプス Sky Eclipse
【著者名】森博嗣
【発行年月日(初版)】2009年2月文庫版
【登場人物の年齢層】-
【概略】空で、地上で、海で。「彼ら」は「スカイ・クロラ」の世界で生き続ける。憧れ、望み、求め、諦めながら—。さまざまな登場人物によって織りなされる八つの物語は、この世界に満ちた謎を解く鍵となる。永遠の子供、クサナギ・スイトを巡る大人気シリーズ、最初で最後の短編集。(「BOOK」データベースより)
【感想】「スカイ・クロラ」シリーズ第六巻。この作品が最終巻となる。この作品は8つの短編集となっており、時系列でいってもバラバラである。さらにこのシリーズで登場した様々なキャラクターの視点に基づいて描かれている。
 私は特にティーチャの視点から描かれた「Nine Lives」が気に入った。文中でティーチャとは明言されていないが、ほぼティーチャであると推測できる。地上のしがらみを抜け出し空へ飛ぶ場面はなんというか清々しく羨ましい。
 この飛んでいるときの描写や心情描写として用いられる文体、即ち短い文章もしくは単語の連続体は、最初の頃は違和感を感じたものの、今では心地よいビートのように馴染んでいる。これは好き嫌いが別れると思うが、おそらく「スカイ・クロラ」シリーズが好きである人であればこの文体も好きである場合が多いと思う。
 また、最後の短編である「Ash on the Sky」これはキルドレではなくなったクサナギがフーコに会いに行くという場面である。時系列でいうとシリーズのいちばん最後に当たる短編であるが、文中にバス停でフーコとクサナギが別れたと言っている。こうなるといよいよ「クレィドゥ・ザ・スカイ」の「僕」がクサナギである可能性が高くなる。
 ネット上の考察を見てみると、さまざまな考察がなされている。よく見かけるのは誰々は誰々の生まれ変わりである、といった考察だ。正直言って飛躍しているような気がするが、しかしそうでもしないと説明がつかないのである。一人称の視点が誰なのか、というミステリーは初めてである。(そもそもミステリー小説をあまり読まないのだが)
 そのようなミステリーはとりあえず置いといて、この作品はシリーズの話を補足する意味でも重要度が高いと思う。
 総評で総合的な考察をしたいと思う。
【ランク】-
【読書中メモの総覧】-
【備考】2009年9月2日に読み終えた。

2009/09/02

クレイドゥ・ザ・スカイ Cradle the Sky(森博嗣)


【タイトル】クレイドゥ・ザ・スカイ Cradle the Sky
【著者名】森博嗣
【発行年月日(初版)】2008年4月15日初版
【登場人物の年齢層】-
【概略】今だけがあって、それだけを考えていられたら良いのに。未来だって、せいぜい明日か明後日くらいしかなければ良いのに—「僕」は病院を抜け出し「彼女」の車で地上を逃げる。二度と空には、戦闘機には戻れないと予感しながら。永遠の時を生きる子供たちを描く、現代の寓話「スカイ・クロラ」シリーズ。
【感想】「スカイ・クロラ」シリーズ第五作目。時系列で言うとこの作品の次が「スカイ・クロラ」となる。
本作の僕が久しぶりに乗り慣れた戦闘機である散香を見たときや乗ったときの喜びぶりが印象的だった。
この作品は最後のエピローグで大きな謎が生じた。本作の「僕」が誰を指しているのか分からなくなってしまった。最初に病院にいたり、フーコと共に病院を抜け出したりするなどから前作「フラッタ・リンツ・ライフ」と同じクリタジンロウだと思っていたのだが、最後に記者の杣中にカンナミと呼ばれているのだ。また、この「カンナミ」は杣中にクサナギに似ていて、さらにクサナギスイト本人は記者曰くクサナギとは別人であると言っている。
他にもこの記者は戦闘機四機を撃墜したのはクサナギスイトだと言ってまでもいる。もし事実であるならば病院から逃亡した本作の僕はクサナギスイトになってしまう。流石にそれは文中にクサナギスイトに銃で射殺される幻覚を見る描写があるため可能性としては低いと思うが、しかし、科学者の相良は「あなたは、キルドレに戻った。」と僕に対して言っているのだ。(おそらく)前作でクサナギスイトはキルドレではなくなっていることが分かっているため、この事を考えると、クサナギスイトが本作の僕の可能性は否定できない。訳が分からない。

この謎はネット上でも話題になっていて、至るところで考察がされているのが見て受け取れた。まだ「スカイ・イクリプス」を読んでいないのでネット上の考察を精読するのは避けるが、「スカイ・イクリプス」を読んでもなお分からないのであれば精読してみるか。

それにしても作者の森博嗣はミステリー作家だったのか。全く知らなかった。シリーズ最終刊の「スカイ・イクリプス」に期待。
【ランク】-
【読書中メモの総覧】-
【備考】2009年8月28日に読み終えた。

2009/08/26

フラッタ・リンツ・ライフ Flutter into Life(森博嗣)


【タイトル】フラッタ・リンツ・ライフ Flutter into Life
【著者名】森博嗣
【発行年月日(初版)】2007年11月25日
【登場人物の年齢層】-
【概略】ずっと二人で空を飛んでいても、決して触れることはない。彼女の手を、彼女の頬を、僕の手が触れることはない—「僕」は濁った地上を離れ、永遠を生きる子供。上司の草薙と戦闘機で空を駆け、墜ちた同僚の恋人相良を訪ね、フーコのもとに通う日々。「スカイ・クロラ」シリーズ急展開。
【感想】「スカイ・クロラ」シリーズ第四作目。本作品は語り手がクサナギからクリタジンロウに代わった。栗田といえば「スカイ・クロラ」においてカンナミの前任者でクサナギ殺したという人物である。
解説にも書いてあったことだが、本作品はシリーズの中でも比較的地上にウェイトがおかれていると思う。また、クサナギが既にキルドレではなくなっていることが明かされた。原因はティーチャの子供を運だからとされているが、では、「スカイ・クロラ」で何故クサナギが死を希求したかが分からなくなった。この辺りは次作「クレィドゥ・ザ・スカイ」で明かされるのかな。
クリタのクサナギに対する感情が淡い片想いな感じがして人間味があり面白い。
やや中だるみというか飽きが来ている感じがしている。シリーズ作品を読むことにあまり慣れていないからか。次作で一応一連の話は終了なので期待。
【ランク】-
【読書中メモの総覧】-
【備考】2009年8月26日に読み終えた。

2009/08/23

ダウン・ツ・ヘヴン Down to Heaven(森博嗣)


【タイトル】ダウン・ツ・ヘヴン Down to Heaven
【著者名】森博嗣
【発行年月日(初版)】2006年11月25日初版発行
【登場人物の年齢層】-
【概略】子供はみんな、空を飛ぶ夢を見るのだ。飛べるようになるまで、あるいは、飛べないと諦めるまで—戦闘機に乗ることに至上の喜びを感じる草薙だが、戦闘中に負傷し入院、空を飛べぬ鬱屈した日を過ごすことに。組織に守られる存在となりつつある自分になじめないままに。そしてある日「少年」に出会う。
【感想】「スカイ・クロラ」シリーズ第三作目。主人公がクサナギで、なんだかよかった。この作品で初めてスカイ・クロラの主人公であるカンナミが登場する。
 本作品の解説がとても良かった。エアショーパイロットである室屋義秀氏による解説なのだが、自信が飛行機に乗っている事もあって飛行機屋の思考や心情などが書かれてあって非常に興味深かった。以下印象に残った解説引用。
     *                *
 地上にいる時と飛行機中のコックピット内では、随分思考のプロセスが異なっている。地上にいる時の安息の環境と、地上から遠く離れたコックピットでは、流れる時間のスピードが圧倒的に違う。
 コックピットでは、思考が影を潜め、感性と肉体的反射により瞬間的に動作が繰り返される、性の官能に程近いような状態となる。パイロットと飛行機はまさに、一体化していく。命を掲げて自由を堪能する、究極の世界がそこにはある。
 一方、地上では命を保障されるかわりに、社会的なルールに縛られ自由を失う。日常の雑多な事に振り回され、コックピットの中で感じる時間の何十倍もの時を過ごさなければならない。
 水素が病院で創造した少年は、生と死・自由と社会という狭間で生み出された、パイロット特有の混濁した思考の現れであろう。
 水素の願望である「明るい本当の空へ。もう一度あがっていこう。」という自我の本質的欲求は私も同じなのだろう。わずらわしい人間関係、混沌とした社会のルール、そして営々として築かれてきた文化という名の不文律。大地という安定した水と緑の世界は孤独を消し去り人間集団を築き上げ、個という存在を見失った。
 人は本当の個という存在をなかなか感じられないかもしれない。生まれた瞬間には既に家族があり、社会があった。個とは何か特異な状況の一種かもしれない。
 空にはスホーイに乗る私の存在しかない。機体だけを信じ本当の自由の中で孤独な自分に不安を感じながら飛ぶ、しかし、地上に降りると又空へあがりたくなる。
     *                 *
 この解説が私が「スカイ・クロラ」シリーズに登場するクサナギやカンナミの心情を理解する事を十分に助けた。「ダウン・ツ・ヘヴン」にはさまざまな出来事があったが、この解説が一番印象に残った。同時に、このシリーズの登場人物の思考や心情、行動の理由をより理解し、また楽しめるようになったと思う。この解説がなければ、自分がクサナギや、カンナミの気持ちをあまり理解できなかったかもしれない。
 この解説を忘れずにこれから読んでいこうと思う。
【ランク】-
【読書中メモの総覧】バイアス ストール・ターン
【備考】2009年8月22日に読み終えた。

2009/08/21

ナ・バ・テア None But Air(森博嗣)


【タイトル】ナ・バ・テア None But Air
【著者名】森博嗣
【発行年月日(初版)】2005年11月25日 (文庫)
【登場人物の年齢層】-
【概略】信じる神を持たず、メカニックと操縦桿を握る自分の腕だけを信じて、戦闘機乗りを職業に、戦争を日常に生きる子供たち。地上を厭い、空でしか笑えない「僕」は、飛ぶために生まれてきたんだ??大人になってしまった「彼」と、子供のまま永遠を生きる「僕」が紡ぐ物語。森博嗣の新境地、待望のシリーズ第二作!
【感想】「スカイ・クロラ」シリーズ第二作目。最初に「スカイ・クロラ」を読んだので次にこの本を手に取ったのだが、かなり重要なミスを犯してしまった。最初、主人公を「スカイ・クロラ」と同じ、即ちカンナミだと思っていたのだ。合田との会話で「なんかおかしいな」と思い、次のページで初めてこの主人公がクサナギだという事に気づいた。思わず電車の中で苦笑してしまった。第一自分の事を「僕」と呼んでいたので全く持って気づきませんでした。僕っ子か。
 それはともかく、この本も時折短い文の連続して続く場面があり、詩的な部分があったり、戦闘シーンもあった。主人公がクサナギである事が「スカイ・クロラ」に比べてよかった。より人間味があったり、より日常的な部分があるからだ。それでも冷たい部分があるのだが。また、尊敬の存在であるチィーチャとの会話や関係が読んでいておもしろかった。
 また、この本で「スカイ・クロラ」に一応妹という事で登場しているミズキがこの本でクサナギスイトから生まれたかな、と推測できる。チィーチャとやってできた子供だろう。また、そのできた子供に対するクサナギの反応が冷たい。まあ当然といえば当然なのだが、だがこんな冷酷(この表現にやや疑問)なキャラが嫌いではない。
 この本が「スカイ・クロラ」シリーズの時系列の一番最初に当たるので、ここから徐々に「スカイ・クロラ」に戻っていこう。
      *           *
 解説の冒頭に『森先生にこの小説を読んだ感想をメールしたときに、「一発で××! という話ですね」と書いたら、「うわあ! 恥ずかしい!」という返事が返ってきました。』と書かれてあった。
 筆者にその感想を送るのはどうなのかな。まあもちろんそれしか書いていないわけないと思うのだが、解説中の文をそのままメールしていたとしたら、冗談でもあまりいい気持ちがしない。
【ランク】-
【読書中メモの総覧】主人公は草薙 僕っ子 やられた
【備考】2009年8月21日に読み終えた。

2009/08/19

スカイ・クロラ The Sky Crawlers(森博嗣)


【タイトル】スカイ・クロラ The Sky Crawlers
【著者名】森 博嗣
【発行年月日(初版)】2004年10月25日第一版
【登場人物の年齢層】-
【概略】僕は戦闘機のパイロット。飛行機に乗るのが日常、人を殺すのが仕事。二人の人間を殺した手でボウリングもすれば、ハンバーガも食べる。戦争がショーとして成立する世界に生み出された大人にならない子供—戦争を仕事に永遠を生きる子供たちの寓話。
【感想】押井監督が監督を務めた映画の原作の一つ。今まで目にはつけてはいたものの、どれから読んでいいのか分からずずっと見過ごしてきた。今回図書券が手に入った事で、とりあえず一番最初に刊行されているこの本を購入してみた。
 語り手である主人公はかなり冷めた感じである。自分の仕事や思った事を冷めた感じて綴ってある。
 どうやらこの本は時系列で見て「スカイ・クロラシリーズ」のなかで一番最後に当たるらしく、wikipediaの項目にも「ナ・バ・テア」が一番時系列で最初らしい。前述のwikipediaの項目に『刊行順での1作目は『スカイ・クロラ』だが、作中の時系列では最後にあたる内容であり時系列順に並べ替えると『ナ・バ・テア』、『ダウン・ツ・ヘヴン』、『フラッタ・リンツ・ライフ』、『クレィドゥ・ザ・スカイ』、『スカイ・クロラ』となっている。文庫にかかる帯もこの順番でスカイ・クロラシリーズを紹介している。筆者によれば、「第1巻は「ナ・バ・テア」ですので、これから読むのが普通」と言う事だが、「どの巻から読んでも差し支えは無い」とも語っている。』という記述があった。最初にこの本を読んで、時間を遡って読む方がいいと考えた(という事にした)。amazonのレビューにも刊行順に読んだ方がいいという記述もあったし。この本ではキルドレである草薙水素が自分の将来を悲観的に見て主人公に殺してくれるよう懇願し最終的に願いが達成されるのだがその考えまでに至った経緯が遡っていく事で分かると思う。
 とりあえずシリーズ全読破しなければ。この夏の間に読み終えたいな。
 こういうシリーズ物は全部読んでないうちに個別にランクを付けるのはどうかと思うので全てを読み終えて総括したいと思う。
【ランク】-
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年8月19日に読み終えた。

2009/08/16

コインロッカー・ベイビーズ(村上龍)☆


【タイトル】コインロッカー・ベイビーズ
【著者名】村上龍
【発行年月日(初版)】新装版文庫 2009/7/15
【登場人物の年齢層】
【概略】1972年夏、キクとハシはコインロッカーで生まれた。母親を探して九州の孤島から消えたハシを追い、東京へとやって来たキクは、鰐のガリバーと暮らすアネモネに出会う。キクは小笠原の深海に眠るダチュラの力で街を破壊し、絶対の解放を希求する。毒薬のようで清々(すがすが)しい衝撃の現代文学の傑作が新装版に!
【感想】文庫の新装版が出たので買って読んでみた。今まで読んだ村上龍の作品は三作目となる。まず読みはじめて思ったことは、読みに難しい漢字がかなり使われているのが読んでて受け取られた。元は1980年に出ているので難しい漢字が使われているのは何となく推察できるが、所詮漢検準二級の語彙はこんなもんかとなんだかむなしい気分になった。パソコンの変換でも出てこない字が多くて、読めなかった字一覧を作る計画が挫折してしまった。
さて内容についてだが、一言で言えばあらすじにも書いてある通り「清々しい」である。中身が濃く、非常に破壊的である。主人公のキクが実の母親を自作銃で殺す場面などは引きずり込まれる感じがした。できればダチュラを用いて町を破壊する場面を描写してほしかった。
とても1980年に書かれたとは思えない作品であった。完成度も高く、もう一度読み返したい作品であった。

金原ひとみの解説が微妙。解説ではなく感想のような印象を受けた。個人的には「解説」をしてほしいものなのだが、こういうものなのだろうか。
【ランク】7.5
【読書中メモの総覧】漢字が難解 65 74 79 薬島 112 117 144 179 214 221224 277 289 圧倒的なスケール 引きずり込まれる カタルシス 393 499 505 519 533
【備考】2009年8月14日に読み終えた。再読を促す。

2009/07/30

宿命(東野圭吾)


【タイトル】宿命
【著者名】東野圭吾
【発行年月日(初版)】1993年7月15日
【登場人物の年齢層】成年
【概略】高校時代の初恋の女性と心ならずも別れなければならなかった男は、苦闘の青春を過ごした後、警察官となった。男の前に十年ぶりに現れたのは学生時代ライバルだった男で、奇しくも初恋の女の夫となっていた。刑事と容疑者、幼なじみの二人が宿命の対決を果すとき、余りにも皮肉で感動的な結末が用意される。(「BOOK」データベースより)
【感想】この本を読もうと思ったきっかけは、今まで本棚にあったものの、推理小説は読むのがめんどくさいという印象から全く手を付けていなかったこの本だが,今回読む本がなくてこの本を読んだ。結果は予想通り丁寧に書かれてあるだけ、クオリティが高いだけの普通の本だった。これは推理小説やミステリーには仕方がのないことなのかもしれないが,設定がリアリティに欠ける。因縁の相手が二卵性双生児だった、昔愛していた彼女が因縁の相手の妻だったetc・・・などあり得ないとしかいいようがないし、展開がある程度読めてしまうというもの問題である推理小説はハラハラドキドキが醍醐味ではないのか。また、これが一番重要視しているのだが、読み終えた後に「オチはこうだったんですね」という印象ばかりで、何も残らなかったのである。これは自分の感受性が低いからだと思っているが、実際のところ自分以外の人々はどうなのだろうか。
 今回おそらく初めて正統派(だと自分は思う)の推理小説を読んだが、感受性の欠ける私にはこの本を読む限り推理小説は好きではなく、時間の無駄ということが分かった。まあ単にこの本がつまらないだけだろう。実際、私が推理小説と認識している門井慶喜の「天才たちの値段」はハラハラドキドキがあった記憶がある。また、文章中に「おられましか」などのおそらく正しくない敬語表現があった。もしかすると意図的にかもしれないが、少々不快に思った。
【ランク】4.5
【読書中メモの総覧】文章中の敬語
【備考】2009年7月30日に読み終えた。

2009/07/24

斜陽(太宰治)


【タイトル】斜陽
【著者名】太宰治
【発行年月日(初版)】1947年12月
【登場人物の年齢層】20代後半
【概略】敗戦後、元華族の母と離婚した“私”は財産を失い、伊豆の別荘へ行った。最後の貴婦人である母と、復員してきた麻薬中毒の弟・直治、無頼の作家上原、そして新しい恋に生きようとする29歳の私は、没落の途を、滅びるものなら、華麗に滅びたいと進んでいく。戦後の太宰治の代表作品。(「BOOK」データベースより)
【感想】夏休みの宿題の第二冊目。またもやダイソー。これも『人間失格』を購入する前に一冊まるまる一つの話が収録されていて(『人間失格』が収録されている本には『桜桃』も含む)お得かな、と思い購入したものの途中で飽きてしまい未読了のまま現在に至った。今回読み終えてみて予想以上にクオリティが高く、人間失格に並ぶ、もしくはそれ以上の作品だなと思った。斉藤孝がこのようなことを言っていたのも頷ける。(斉藤孝『若いうちに読みたい太宰治』『斜陽』の項目参照)第二次世界大戦後の没落貴族の様子が描かれている。堕ちていきながらも必至に生きようとする主人公のかず子のバイタリティは貴族の域を超えており、人間としての強さが見える。この強さは見習いたい部分である。感想文としては『人間失格』よりも『斜陽』のほうが書きやすいかな、と思った。クラスメートのO氏は『斜陽』は軽くて3時間ぐらいで読み終えたと言っていたが、それはどうよ。
    *          *           *
以下、今回の感想文。自分でも稚拙だなあと思う。
私は斜陽を読んで没落していく貴族の娘である主人公のかずこが必死に生きようとしている姿に強烈なバイタリティを感じた。自分が辛い状況に置かれているなか生きていこうとする姿が印象に残った。
対してかず子の弟である直治が自殺したことに嫌な印象を持った。
また、姉弟の生きる姿に大きなコントラストを感じた。片方が必死に生きようとするのに対してもう片方は現状に苦しみ自殺してしまうところにコントラストを感じ、斉藤孝が「太宰治の作品の中でいちばんの傑作は何かといえば、『人間失格』をあげる人が多いと思います。でも私は『斜陽』が完成度が最も高い作品だと思っています」(『若いうちに読みたい太宰治』p.95より)といっているように完成度の高さが感じられた。
斎藤孝は好きではないが、私もこの意見には同意だ。『人間失格』と『斜陽』の両方を読んでみたが、完成度でいえば『斜陽』の方が高いと思う。太宰の心情がより分かる事が
できるのは『人間失格』だと思うが、全体の完成度でいえば『斜陽』の方が一枚上手だと思った。
私がそのように感じたのは、これは私の勝手な貴族に対するイメージなのだが、普通貴族の娘は、ヨイトマケや畑仕事を行ったり、進んで上京したりなどしないと思ったからだ。
そもそも貴族とは何かというのを考えてみる。大辞林によると、「家柄・身分の高い人。代々、血統・門地により、社会的特権をもつ階級。日本では古くは藤原一族や公卿の家柄などがこれに相当し、明治維新後は華族令による華族をさしたが、第二次大戦後消滅した。」と書かれている。
その特権を持っていた彼女ら貴族だが、昭和21年に施行された貯金の封鎖と財産税により叔父からの仕送りが難しくなり、かず子一家は別荘への引っ越しを余儀なくされた。
そこでぼや騒ぎを起こしてしまったかず子は近所の農家で畑仕事を手伝った。その前にも戦争のときに徴用されてヨイトマケと呼ばれる力仕事を行っていた。
そのときに履いた地下足袋についてかず子は「地下足袋というものを、その時、それこそ生れてはじめてはいてみたのであるが、びっくりするほど、はき心地がよく、それをはいてお庭を歩いてみたら、鳥やけものが、はだしで地べたを歩いている気軽さが、自分にもよくわかったような気がして、とても、胸がうずくほど、うれしかった。」
またかず子が徴用されてやらされたヨイトマケについて、「私が徴用されて地下足袋をはき、ヨイトマケをやらされた時の事だけは、そんなに陳腐だとも思えない。ずいぶん嫌な思いもしたが、しかし、私はあのヨイトマケのおかげですっかりからだが丈夫になり、いまでも私は、いよいよ生活に困ったら、ヨイトマケをやって生きて行こうと思う事があるくらいなのだ。」とまで述べている。
『斜陽』の英語版のタイトルは『settting sun』というタイトルである。setには沈む、衰退するという意味があり、まさしく沈んでいく太陽を表している。
その「沈んでいく太陽」は普通畑仕事や力仕事は行わないはずなのに、かず子はその仕事を受け入れ、さらにはヨイトマケを仕事にしても良いというぐらいに肯定している。
更に、かず子のお母様が亡くなり、好きな上原を訪ねて上京する節があるが、その節の最初の一文が、
「戦闘、開始。」
である。
なんとも強く、頼もしい第一声ではないか。
それに比べてといってはさすがに手厳しいかもしれないが、弟の直治の自殺には全く持って姉とは対照的だと思う。
彼が現実に苦しむ姿はさまざまな場面で散見されるし、自殺したときに書かれた遺書に「姉さん。
僕は、死んだ方がいいんです。僕には、いわゆる、生活能力が無いんです。お金の事で、人と争う力が無いんです。」
などと自己を卑下する文章も書かれている。
が、やはり自殺は「逃げ」というのが自分の中での見方である。手厳しいかもしれないがもう少し生きる事をがんばってほしかった。
結論として、私は、この主人公の精神を見習い、大変な状況であってもそれを自ら進んで打破する精神を持とうと思う。加えて、自殺はやっぱりどうしようもなくなったときの最終手段であり、「逃げ」に値するという自分の中の見方も一段と強まった。その最終手段を使う前に自分の中で使えるカードを使いきってからその手段を検討しよう。
と、ありきたりな結論を述べたが、こんな大それた事はあくまで目標であり、すぐに実現できるとは全く思っていない。
だから、まず最初に自分が今置かれている大変な状況を一つ一つ確実に打破していこうと思う。
さて、そろそろ真面目に宿題や社会の取材に取り組むとしますか。
今回、前から家にあったダイソー文庫で『人間失格』と『斜陽』を読んだ。ISBN番号がない怪しい本だが、下に用語の解説が載っていて分かりやすかった。やはり体裁よりも中身が重要。
【ランク】6.5+α
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年7月22日に読み終えた。

2009/07/23

人間失格(太宰治)


【タイトル】人間失格
【著者名】太宰治
【発行年月日(初版)】1948年5月12日
【登場人物の年齢層】少年期〜20代後半
【概略】「恥の多い生涯を送って来ました。自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです」青森の大地主の息子であり、廃人同様のモルヒネ中毒患者だった大庭葉蔵の手記を借りて、自己の生涯を壮絶な作品に昇華させた太宰文学の代表作品。「いまは自分には、幸福も不幸もありません。ただ、一さいは過ぎて行きます」(「BOOK」データベースより)
【感想】夏休みの国語の宿題としてこの太宰治の『人間失格』を読んだ。前にも読んだ記憶がありこれが二回目になるが、主人公が破滅していくのには強い印象が残った。が、あまり自分が主人公の大庭葉蔵に共感できる部分は少なかった。ここまで人間不信ではないからかもしれない。wikipediaの記事を読む限り自伝的小説らしい。太宰治の状態がこの『人間失格』によって書かれているのであったと考えるととてもわくわくするというの興味が湧いてくるというのか。ただ感想文の題材としては『斜陽』の方が書きやすそうではあるかな、と思った。
       *             *
この作品はダイソーの本を買って読んだ。ダイソーの本にはISBN番号が表記されていないあたり正規(?)の出版物ではないのかなと思った。青空文庫の文章を用いているらしいが青空文庫は商業利用を認めているのかな。
【ランク】6
【読書中メモの総覧】▼神曲▼誘導尋問▼DIAL
【備考】2009年7月19日に読み終えた。(二回目)再読を促す。

2009/07/14

サンクチュアリ(フォークナー 西川正身訳)[未読了]


【タイトル】サンクチュアリ
【著者名】フォークナー
【訳者名】西川正身
【発行年月日(初版)】1994年10月20
【登場人物の年齢層】成人
【概略】ミシシッピー州のジェファスンの町はずれで、車を大木に突っこんでしまった女子大生テンプルと男友達は、助けを求めて廃屋に立ち寄る。そこは、性的不能な男ポパイを首領に、酒を密造している一味の隠れ家であった。女子大生の凌辱事件を発端に異常な殺人事件となって醜悪陰惨な場面が展開する。ノーベル賞作家である著者が“自分として想像しうる最も恐ろしい物語”と語る問題作。(「BOOK」データベースより)
【感想】読み終わらなかった。挫折ということになる。途中で読むのを放棄してしまうのは『The Catcher In The Rye』以来覚えている中では二冊目になる。
 文庫本の概略に女子大生が陵辱される云々と書かれていたため好奇心から読み始めたという下劣なきっかけだが、ここまでハードルが高いとは思わなかった。6月の頭から読み始めたが、あまりに長いのと読みづらい、難しいの三点セットで挫折した。
 そもそも、1ページに上下に分かれているスタイルを読むのが初めてで、まあ読み終えるだろうという甘い目論見をしていたところ、あまりの文章量の多さに打ち砕かれてしまった。さらに、古い翻訳本という感じがして情景描写が難しく,比喩が多用されて直接的な描写が少ないのも挫折するきっかけとなってしまった。
 しばらく自分の身分にあった難度と文章量の本を読もうと思った。
【ランク】-
【読書中メモの総覧】なし
【備考】未読了。

2009/06/26

限りなく透明に近いブルー(村上龍)☆


【タイトル】限りなく透明に近いブルー
【著者名】村上龍
【発行年月日(初版)】1976年1月
【登場人物の年齢層】成年
【概略】アメリカ軍基地を持つ福生を舞台に、若者たちのセックスや麻薬、黒人との交流などに明け暮れ、リュウ(主人公)が次第にドラッグによって体が蝕まれ、最終的には狂ってしまう(wikipedia)
【感想】「エクスタシー」を読んで村上龍という作家に惹き付けられ、彼のデビュー作を読んでみた。この作品は「エクスタシー」に比べてどちらかというとドラッグの方面に比重が置かれており、(まあ当然といえば当然なのだが)主人公のドラッグによって破滅していく姿描かれているのだが、やはりというか強烈な印象を持った。表現がかなり抽象的で自分の置かれている状況が混沌としてまた空虚である様子が読んで受け取られる。
 この作品は群像新人文学賞と芥川賞を受賞しているのだが、wikipediaのこの項目を読んでみると芥川賞の受賞には賛否が分かれかなり論戦が起こったらしい。まあ内容的にいってすんなり受賞するとは思えなかったからやはり論戦は必至だったと思う。また最初の原題が「クリトリスにバターを」という題名で露骨な性描写のため改題したエピソードが載っているが、流石にそのタイトルはだめだろう。
 「エクスタシー」とこの作品を読んで、村上龍はどうやったらこの文章が生み出せるのか本当に分からないという印象を持った。自身の体験があるのかもしれないがこれだけのセックスやドラッグ表現が生み出せるのはやはり才能なのかな、とも思う。
 「中国語版の出版に際し、序文の中で村上本人は作品のテーマを、近代化の達成という大目標を成し遂げた後に残る『喪失感』であると述べている。また同文中にて、この作品がその後の作品のモチーフを全て含んでいる、ということが述べられている。」という文章がwikipediaに書かれてあり、なるほどな、と思った。もうちょっと村上龍の作品を読んでいきたい。
 新装版に綿矢りさの解説が載っているが、抽象的で分かりづらいなという印象を持った。
【ランク】6.5+α
【読書中メモの総覧】ニブロール
【備考】2009年6月25日に読み終えた。再読を促す。

2009/06/20

ノーと私(デルフィーヌ・ドゥ・ヴィガン)


【タイトル】ノーと私
【著者名】デルフィーヌ・ドゥ・ヴィガン
【訳者名】加藤かおり
【発行年月日(初版)】2008年12月25日
【登場人物の年齢層】13〜18
【概略】飛び級してフランスの高校リセに通っている私とホームレスの少女ノーが出会い、過ごしていき、様々な出来事を経験していく物語(by me)/ホームレスの少女「No」と、飛び級で高校に通う13の「私」。ひとりぼっちで、いつもみんなの輪の外側にはみ出していた私は、ノーといるときだけ世界にくっついていられた。かけがえのない存在、「いつもいっしょ」のふたり。けれど、ひとつの季節が終わる頃、私の中のなにかが変わっていった…。2008年フランス本屋大賞受賞作。 (「BOOK」データベースより)
【感想】読み終わってみての第一印象は結構深い、というものであった。主人公の心情描写がやや抽象的かつ重たく、またクラスのボス的存在であるリュカには恋心を抱くような記述があり、結構リアルに心情を描写していると思った。またノーというホームレスの少女を一緒に住ませようと努力するあたり、13歳以上の行動をしているとも感じた。
 主人公の心情描写が抽象的で深いので再読を促す。
        ☆               ☆
 この小説はフォークナーの「サンクチュアリ」を読んでいる途中に息抜きとして読んだのだが、やはり「サンクチュアリ」に比べて全然読みやすい。
【ランク】6.5
【読書中メモの総覧】無し
【備考】2009年6月19日に読み終えた。再読を促す。

2009/05/29

風の歌を聴け(村上春樹)


【タイトル】風の歌を聴け
【著者名】村上春樹
【発行年月日(初版)】1982年7月15日
【登場人物の年齢層】成人
【概略】一九七〇年の夏、海辺の街に帰省した“僕”は、友人の“鼠”とビールを飲み、介抱した女の子と親しくなって、退屈な時を送る。二人それぞれの愛の屈託をさりげなく受けとめてやるうちに、“僕”の夏はものうく、ほろ苦く過ぎさっていく。青春の一片を乾いた軽快なタッチで捉えた出色のデビュー作。群像新人賞受賞。(「BOOK」データベースより)
【感想】結構有名な村上春樹のデビュー作ですね。全体的に柔らかく、抽象的で、でもすぐに読み終えられた。まあ正直一回読んだだけじゃ良さが分からないような気もするが、でも一回しか読まない。軽快なタッチであった。
 全く関係ないのだが、小説中に出てきたニーチェの言葉に感銘を受けたので引用しておく。
 「昼の光に、夜の闇の深さが分かるものか。」
【ランク】6+α
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年5月29日に読み終えた。

2009/05/28

リプレイ(ケン・グリムウッド)☆


【タイトル】リプレイ
【著者名】ケン・グリムウッド
【訳者名】杉山高之
【発行年月日(初版)】1990年7月20日
【登場人物の年齢層】大学生〜40歳代
【概略】人生をやり直せることになった男の辿った物語(by me)/ニューヨークの小さなラジオ局で、ニュース・ディレクターをしているジェフは、43歳の秋に死亡した。気がつくと学生寮にいて、どうやら18歳に逆戻りしたらしい。記憶と知識は元のまま、身体は25年前のもの。株も競馬も思いのまま、彼は大金持に。が、再び同日同時刻に死亡。気がつくと、また―。人生をもう一度やり直せたら、という窮極の夢を実現した男の、意外な、意外な人生。(「BOOK」データベースより)
【感想】友人のKの勧めにより読んでみた。「人生のやり直し」という設定はかなりベタな設定であり、果たしてどのように展開していくのか興味を抱きながら読み進めていった。全ての人生のやり直しが決して幸福なものではなく、むしろ人生が強制的にやり直しになってしまうという点では不幸である点でよくありがちな夢物語ではないところがまず最初に面白みを感じた。また、主人公の他にも「人生をやり直す」状態になっている人物が登場し.同じ境遇を味わうものとして惹かれ合うものの、だんだん「人生をやり直す」期間が短くなっていくにつれて不安になっていくところも描かれていて面白い。
 SF小説は今まであまり読んだことがなく、なんとなく「所詮は面白設定によるエンターテイメントだろ」みたいな的確ではないイメージを持っていたのだが、この本を読んだことでSFも普通の小説(この言い方もあまり良くないかもしれない)と同じくさまざまな心情が描かれていたり、また、多彩な読みを可能にする本であることが分かった。とりわけこの本は様々な読みが可能であるし、様々なことが学べるのである。そのなかでも個人的に一番印象に残ったことは時間はたくさんあるようで気がついたら全く残っていない、ということである。これに関して印象に残った本文の一節を挙げる。
 「彼女はタクシーに乗り込むと彼を見上げて、若さは無限だという思い込みと、楽観主義を丸出しにしていった。『大丈夫よ。私たちには解決策を見出す時間はたっぷりあるわ。時間ならいくらでもあるんですもの。』それは幻想であるとジェフは知っていた。あまりにもよく知りすぎていた。」(P.442〜P.443)これは主人公のジェフが何回もの「リブレイ」によって長く生き、そしてもうすぐそのリプレイが終わりを迎えようとしていることで身を以て思っていることであるが、この場面がかなり印象に残った。
 余談であるが、この作品は1988年度の世界幻想文学大賞を受賞したようである。この賞がどれぐらい凄いのかよく分からないが、結構評価されているようである。また、この設定はゲーテの「ファウスト」に影響を受けているようである。ゲーテってこういう設定の本も書くんですね。興味が湧いてきました。
【ランク】7.5
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年5月28日に読み終えた。再読を促す。

2009/05/16

夜のピクニック(恩田陸)


【タイトル】夜のピクニック
【著者名】恩田陸
【発行年月日(初版)】2004年7月30日
【登場人物の年齢層】高校生
【概略】高校3年生のメインイベント、80キロを一日かけて歩ききるイベントで起きた人間関係の変化についての物語(by me)/高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために―。学校生活の思い出や卒業後の夢などを語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。本屋大賞を受賞した永遠の青春小説。 (「BOOK」データベースより)
【感想】久しぶりに高校生が登場人物の小説を読んだと思う。全体的に文章が青春!って感じがして読んでいてなんとなくだが清々しい感じがした。男子校にいる自分にとってこのような人間関係が将来存在するとはとても思えなく、少々羨ましい感じがした。全体的なクオリティは高いが、帯に書いてある池上冬樹のコメント「本書は世代を超えて読み続けられるだろう。子どもからは心の汚れた親へ、親からは純真さを失いそうな我が子へ送られるにちがいない」は少々誇張だ。名作と呼ぶには清々しさが強すぎてリアリティがない。
        *             *
 登場する人物の関係の一つに「異母きょうだい」という設定が出てきたのだが、これは今まで小説を読んで北中で初めての設定である。現実的に見た場合そもそも「異母きょうだい」という存在がまれでさらに同じ学校で同じ暮らすという状況は存在するのか、というあまり関係ない疑問が湧いた。まああり得ないだろう。
【ランク】7
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年5月16日に読み終えた。

2009/05/14

ポトスライムの舟(津村記久子)


【タイトル】ポトスライムの舟
【著者名】津村記久子
【発行年月日(初版)】2009年2月2日
【登場人物の年齢層】成年
【概略】自分の年収と同じ金額の世界一周旅行の費用をためるナガセの物語&上司に苦しむツガワの物語(by me)/お金がなくても、思いっきり無理をしなくても、夢は毎日育ててゆける。契約社員ナガセ29歳、彼女の目標は、自分の年収と同じ世界一周旅行の費用を貯めること、総額163万円。第140回芥川賞受賞作。(「BOOK」データベースより)
【感想】第140回芥川賞の受賞作品だが、正直おもしろくなかった。ナガセの貯金がたまるまでの物語が淡々と描かれているが、ただ物語が描かれているだけでしかない。こういう感じの本はおもしろいという人とつまらないという人と割れることが多いが、残念ながら自分は後者にあたる。自分は小説の深読みができていないのかもしれないとしか言いようがない。「アレグリアとは仕事はできない」のほうがおもしろいと思うが。
【ランク】4.5
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年5月14日に読み終えた。再読を促す。

2009/05/12

車輪の下(ヘルマン・ヘッセ)


【タイトル】車輪の下
【著者名】ヘルマン・ヘッセ
【訳者名】秋山英夫
【発行年月日(初版)】1977年4月
【登場人物の年齢層】少年
【概略】主人公ハンスが勉強のために少年の大切な時間を奪われ、最終的に死んでしまう物語(by me)/天才的な才能を持ち育ったハンスという少年は、エリート養成学校である神学校に2位の成績で合格する。町中の人々から将来を嘱望されるものの、神学校の仲間と触れ合ううちに、勉学一筋に生きてきた自らの生き方に疑問を感じる。そして周囲の期待に応えるために自らの欲望を押し殺してきた果てに、ハンスの細い心身は疲弊していく。勉強に対するやる気を失い、ついに神学校を退学する。その後機械工となり出直そうとするが、挫折感と、昔ともに学んだ同級生への劣等感から自暴自棄となり、慣れない酒に酔って川に落ち溺死する。(wikipedia)
【感想】友人のO君曰くかなり重たく悲惨な物語と言っていたので読んでみたが、予想以上に悲惨ではなかった(それでも最終的に死んでしまうので十分悲惨であるが)。海外の文学では久しぶりの三人称で、読みやすかった。内容は主人公ハンスの一生を語り少年時代の過酷な教育制度を批判したような物語になっている。wikipediaによると1905年に発表されたらしいが、全く持って現在に通ずると思う。教育制度の痛烈な批判は著者であるヘッセの過去から生み出されていることが解説やwikipediaによって書かれている。物語の内容について最後の川に溺れて溺死する部分は少々むなしくまた気に食わない。
【ランク】6.5
【読書中メモの総覧】▼久しぶりに三人称▼現在に通ずる▼DEAD END
【備考】2009年5月12日に読み終えた。

2009/05/06

時計じかけのオレンジ(アントニイ・バージェス)☆


【タイトル】時計じかけのオレンジ
【著者名】アントニイ・バージェス
【訳者名】乾信一郎
【発行年月日(初版)】2008年9月15日(文庫)1980年3月(単行本)
【登場人物の年齢層】15歳
【概略】近未来の高度管理社会。15歳の少年アレックスは、平凡で機械的な毎日にうんざりしていた。そこで彼が見つけた唯一の気晴らしは超暴力。仲間とともに夜の街をさまよい、盗み、破壊、暴行、殺人をけたたましく笑いながら繰りかえす。だがやがて、国家の手が少年に迫る。スタンリー・キューブリック監督映画原作にして、英国の二十世紀文学を代表するベスト・クラシック。幻の最終章を付加した完全版(「BOOK」データベースより)
【感想】名前は聞いた事があったのだが、今まで映画、原作どちらも読んだ事がなかったのだが、ちらっと見た書店のポップを思い出して読んでみた。若者による暴力をこれほど鮮明にかかれたのは読んだ記憶がなく、また、国家によって「善」を強制される事の怖さなどが描かれていて、非常に興味深い本だった。ルドビコ療法という方法によって暴力をしようとすると吐き気や身体に苦痛が生じるようにして犯罪者を矯正するのだが、一種の洗脳によって否応無しに「善」が強制されるのは読んでいてとても苦痛に感じた。また、刑務所教誨師の言葉が後ろの解説に書かれていたのだが、その言葉に感銘を受けたので引用する。「善というものは、心の中から来るものなんだよ。善というものは、選ばれるべきものなんだ。人が、選ぶことができなくなった時、その人は人であることをやめたのだ。」「人は自由意志によって善と悪を選べなければならない。もし善だけしか、あるいは悪だけしか為せないのであれば、その人は時計じかけのオレンジでしかないーーつまり、色もよく汁気もたっぷりの果物に見えるが、実際には神か悪魔か(あるいはますますその両者に取って代わりつつある)全体主義政府にねじをまかれるじんまいじかけのおもちゃでしかないのだ」(A Clockwork Orange Resucked).実はまだこの文章を本文中に見つけられていないのだが、これはA Clockwork Orange Resuckedと呼ばれるアメリカで完全版が再刊されたときについた序文に書かれてあるのかもしれない。
 この作品はキューブリックによって映画化されている。この映画は原作の暴力などを忠実に再現されているらしく、また原作の第7章が削除されているそうなので機会があれば見てみたい。
 この本を読むにあたって一つ失敗したことがある。wikipediaの「時計じかけのオレンジ」(http://ja.wikipedia.org/wiki/時計じかけのオレンジ)のストーリーの項目を先に読んでしまったことである。かなりクオリティの高いあらすじを読んでしまったことで、しょうしょう「次が気になる」気持ちを殺してしまったことは大きな過ちであり、次からは気をつけたい。
 全く持って関係のないことなのだが、この本の解説をしている柳下殻一郎の職業名「特殊翻訳家」というものがどういうものか気になって調べたところ、wikipediaによると、「『特殊翻訳家』の謂いは、普通の翻訳家が手を出さない特殊な文献・文学作品を好んで翻訳することからで、『特殊漫画家』と自称した根本敬から影響を受けた自称である。」と書かれてあった。興味があるので今後彼の訳した本も読んでみたい。
【ランク】7.5
【読書中メモの総覧】▼ハラショー▼特殊翻訳家
【備考】2009年5月6日に読み終えた。再読を促す。

2009/04/29

ゴールデンスランバー(伊坂幸太郎)


【タイトル】ゴールデンスランバー
【著者名】伊坂幸太郎
【発行年月日(初版)】2007年11月30日
【登場人物の年齢層】成人
【概略】首相の暗殺の犯人に仕立て上げられた主人公青柳が逃亡する出来事を様々な時間軸や視点から追った物語(by me)/仙台で金田首相の凱旋パレードが行われている、ちょうどその時、青柳雅春は、旧友の森田森吾に、何年かぶりで呼び出されていた。昔話をしたいわけでもないようで、森田の様子はどこかおかしい。訝る青柳に、森田は「おまえは、陥れられている。今も、その最中だ」「金田はパレード中に暗殺される」「逃げろ!オズワルドにされるぞ」と、鬼気迫る調子で訴えた。と、遠くで爆音がし、折しも現れた警官は、青柳に向かって拳銃を構えた―。精緻極まる伏線、忘れがたい会話、構築度の高い物語世界―、伊坂幸太郎のエッセンスを濃密にちりばめた、現時点での集大成。(「BOOK」データベースより)
【感想】惜しい。この一言に尽きる。本や大賞を受賞したこの作品は、「死神の精度」が面白かった事から、「この作品はきっと面白い」と思いつつ読んだのだが、最初の方で時間がかかった。読んでいてつまらなかったのである。読み終えると最初の方は重要な伏線となっているのに気づくのだが。
 この作品のクオリティは非常に高い。ただ、面白い本に起きる「躍動感」すなわち次の展開が気になる、早く続きを読みたい、といった感情が起こらず、むしろ「やっと半分か」などの感情の方が大きかった。
 理由を考えてみると「首相公選」がリアリティを失っている原因となり、その結果躍動感がなくなったのかな、とも思ったが理由の一つではあるけれどメインではないようにも思える。
 今のところ躍動感がない理由が浮かばないが、「おもしろかった小説」にはならなかった。
【ランク】6.5
【読書中メモの総覧】▼若干のリアリティを失っている▼最初はつまらない▼時間軸が頻繁に動く
【備考】2009年4月29日に読み終えた。

2009/04/25

アレグリアとは仕事はできない(津村記久子)


【タイトル】アレグリアとは仕事はできない
【著者名】津村記久子
【発行年月日(初版)】2008年12月10日
【登場人物の年齢層】成人
【概略】「アレグリア」という複合機に芽生える主人公ミノベの憎悪や、アレグリアによって浮かび上がる人間関係や出来事を綴った物語。満員電車に乗っている乗客の心理や出来事を綴った「地下鉄の叙事詩」も収録(by me)
【感想】コピー機を巡ってこんな物語が展開されるとは思っていなかった。正直タイトルにつられて読んだのだが、予想以上に面白い。ちゃんと起承転結に乗っ取っている。が、「地下鉄の叙事詩」は微妙。読むのに時間がかかった。
【ランク】5
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年4月25日に読み終えた。

2009/04/21

エクスタシー(村上龍)☆


【タイトル】エクスタシー
【著者名】村上龍
【発行年月日(初版)】1995年4月25日(文庫)
【登場人物の年齢層】20〜30代
【概略】ニューヨークでホームレスをしているヤザキとカタオカケイコ、レイコによる麻薬とセックスを絡めた快楽の話と主人公のミヤシタによる物語(by me)/「ゴッホがなぜ耳を切ったか、わかるかい」とそのホームレスの男は僕に日本語で話しかけてきた。ニューヨーク、ダウンタウンのバウアリー。男は、「ここに電話してオレと会ったことを言えば、お金を貰えるよ」と紙切れをくれた。東京のケイコと、パリのレイコと男、恍惚のゲームは果てしなく繰り返される。国際都市を舞台に、人間の究極の快楽を追求した長編小説。(「BOOK」データベースより)
【感想】タイトルと後ろのあらすじから想像していたが、予想以上にエロい(?)。正直エロいとかエロスとかそういう表現は適していないように思えるのだが、語彙が少ないので仕方がない。ここまでドラッグとセックス、それもSM系で、ここまで踏み込んでいるのは読んだ事がない。なんというか人間の快楽って奥深いな・・・としかいいようがない。この本の感想は語彙が少なすぎて表す事ができないのが現状である。
村上龍の書いた本を読むのはこれが初めてだが、もっと他の作品も読みたくなるほど引きつけられた。
【ランク】7.5
【読書中メモの総覧】▼ダウナー系▼ニンフォマニア▼セクレタリー▼ソフィスティケイト
【備考】2009年4月21日に読み終えた。再読を促す。

2009/04/15

夢を与える(綿矢りさ)


【タイトル】夢を与える
【著者名】綿矢りさ
【発行年月日(初版)】2007年2月28日
【登場人物の年齢層】〜浪人生
【概略】芸能界に入った主人公が徐々に堕ちていく物語(by me)/私は他の女の子たちよりも早く老けるだろう。チャイルドモデルから芸能界へ―幼い頃からTVの中で生きてきた美しくすこやかな少女・夕子。ある出来事をきっかけに、彼女はブレイクするが…少女の心とからだに流れる18年の時間を描く。芥川賞受賞第一作。 (「BOOK」データベースより)
【感想】主人公が落ちぶれていく物語は久しぶりに読んだ気がする。芸能界に入った主人公の心情の変化や周りの人たちの様子が書かれていて面白い。だが、結末が何とも言えない。落ちぶれ方が微妙というかかなり曖昧な感じに終わってしまったのでもうちょっとそのあたりを読みたかった。まあこの物語の主体を考えればあまり必要のないのかもしれないが・・・
【ランク】6.5
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年4月12日に読み終えた

2009/04/09

人のセックスを笑うな(山崎ナオコーラ)


【タイトル】人のセックスを笑うな
【著者名】山崎ナオコーラ
【発行年月日(初版)】2006年10月20日(文庫)
【登場人物の年齢層】19&39
【概略】19歳の主人公オレと39歳のユリによる恋愛物語(by me)/9歳のオレと39歳のユリ。恋とも愛ともつかぬいとしさが、オレを駆り立てた…美術専門学校の講師・ユリと過ごした日々を、みずみずしく描く、せつなさ100%の恋愛小説。「思わず嫉妬したくなる程の才能」など、選考委員に絶賛された第41回文藝賞受賞作/芥川賞候補作。短篇「虫歯と優しさ」を併録。 (「BOOK」データベースより)
【感想】以前映画の宣伝を思い出して買ってみたのだが、まあ恋愛物語だな・・としか読後の感想が浮かばなかった。ただ文章の印象がとても柔らかい感じがしたようにも思える。
【ランク】5.5
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年4月9日に読み終えた

2009/04/06

天才たちの値段(門井慶喜)


【タイトル】天才たちの値段
【著者名】門井慶喜
【発行年月日(初版)】2006年9月15日
【登場人物の年齢層】成年
【概略】短大の美術の講師である主人公佐々木昭友が美術における天才神永未有と出会い、様々な美術の問題を解こうとする物語。(by me)/子爵の屋敷の地下室に秘蔵されていた巨匠ボッティチェッリ作「秋」。これは世紀の大発見か、罪深き贋作なのか? 鑑定眼ならぬ「鑑定舌」で真贋を見きわめる天才美術探偵、神永美有が活躍する美術ミステリー。 (「MARC」データベースより)
【感想】普段推理小説は読まない私だがこういう美術の謎解き、推理にハラハラした。最初の短編のハラハラ度がとてつもなかった。美術の専門的な話がやや難しいものの、しっかり読めばついていけるレベルであり、久々に濃い内容の小説に出会ったと思う。丁寧な話の展開なので、違う作品も読んでみようと思う。
【ランク】7
【読書中メモの総覧】▼美術の専門的な話がやや難しい▼最初の短編の推理的なものにハラハラしてしまった▼精読できていない▼最後の話がいちばん難しい気がするが終わり方がきれい
【備考】2009年4月6日に読み終えた

蛇にピアス(金原ひとみ)


【タイトル】蛇にピアス
【著者名】金原ひとみ
【発行年月日(初版)】2004年1月10日
【登場人物の年齢層】18付近
【概略】ピアッシングや刺青などの身体改造を題材に、現代の若者の心に潜む不気味な影と深い悲しみを、大胆な筆致で捉えた問題作である。埋め込んだピアスのサイズを大きくしていきながら、徐々に舌を裂いていくスプリットタン、背中一面に施される刺青、SM的なセックスシーン。迫力に満ちた描写の一方で、それを他人ごとのように冷めた視線で眺めている主人公の姿が印象的だ。第130回芥川賞受賞作品。
顔面にピアスを刺し、龍の刺青を入れたパンク男、アマと知り合った19歳のルイ。アマの二股の舌に興味を抱いたルイは、シバという男の店で、躊躇(ちゅうちょ)なく自分の舌にもピアスを入れる。それを期に、何かに押されるかのように身体改造へとのめり込み、シバとも関係を持つルイ。たが、過去にアマが殴り倒したチンピラの死亡記事を見つけたことで、ルイは言いようのない不安に襲われはじめる。
本書を読み進めるのは、ある意味、苦痛を伴う行為だ。身体改造という自虐的な行動を通じて、肉体の痛み、ひいては精神の痛みを喚起させる筆力に、読み手は圧倒されるに違いない。自らの血を流すことを忌避し、それゆえに他者の痛みに対する想像力を欠落しつつある現代社会において、本書の果たす文学的役割は、特筆に価するものといえよう。弱冠20歳での芥川賞受賞、若者の過激な生態や風俗といった派手な要素に目を奪われがちではあるが、「未来にも、刺青にも、スプリットタンにも、意味なんてない」と言い切るルイの言葉から垣間見えるのは、真正面から文学と向き合おうとする真摯なまでの著者の姿である。(中島正敏)
【感想】「オートフィクション」を先に読んだので、これも「オートフィクション」と同じように支離滅裂という感じの文章なのかなと思っていたが自分としてはこっちの方が読みやすく、また痛みをうまく表されていて面白い。ただなんというかwikipediaに『選考委員の石原慎太郎は受賞作発表後の記者会見において、この回の候補作全体に対して否定的見解を示して「今年は該当作無しでも良かったんじゃないか」と前置きした上で、それでも同時受賞した2作品・「蹴りたい背中」(綿矢りさ著)、「蛇にピアス」からいずれかを選ぶならば「蛇にピアス」を推すとしている』としているが私としては「蹴りたい背中」の方が秀逸だと思う。また、アマゾンに書評が載っており概略として引っ張ってきたが、これは少々読み解き過ぎではないかと思う。あと終わり方が少々味気ない気がするが、どうやら単行本にするにあたり改変されたようで、改変される前の結末の要約を読んだがこちらのほうが良い気がする。
【ランク】6
【読書中メモの総覧】▼芥川賞は真っ当なテーマばかりじゃないんだ▼終わり方
【備考】2009年4月6日に読み終えた

2009/04/03

ぼくは勉強ができない(山田詠美)


【タイトル】ぼくは勉強ができない
【著者名】山田詠美
【発行年月日(初版)】1996年3月1日(文庫)
【登場人物の年齢層】高校生
【概略】ぼくは確かに成績が悪いよ。でも、勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいあると思うんだ―。17歳の時田秀美くんは、サッカー好きの高校生。勉強はできないが、女性にはよくもてる。ショット・バーで働く年上の桃子さんと熱愛中だ。母親と祖父は秀美に理解があるけれど、学校はどこか居心地が悪いのだ。この窮屈さはいったい何なんだ。凛々しい秀美が活躍する元気溌刺な高校生小説。(「BOOK」データベースより)
【感想】山田詠美作品の中でいちばん好きな作品となった。主人公が高校生で男であり、他の作品と違って男と女のつながり以外にも焦点を当てている。学校という場が舞台になっているので主人公に気持ちを入れやすいというのも一因。
 この主人公である時田秀美になんとなく憧れてしまうのである。勉強が主な進学校にいる私にとって、おそらく経験する事のない高校生ライフであるし、また、この主人公の性格自体にも自分がなりたいなと願望を抱いている性格だからかもしれない。
 この本を読むのは二回目だが、やはり飽きというものがこない。多分私が高校生になっているときにまた読むんじゃないかなとも思う。
【ランク】7
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年4月2日に読み終えた(二回目)

2009/04/01

教室へ(フランソワ・ベゴドー)


【タイトル】教室へ
【著者名】フランソワ・ベゴドー
【訳者名】秋山研吉
【発行年月日(初版)】2008年12月25日
【登場人物の年齢層】中学生
【概略】フランスのコレージュ(日本の中学校にあたる)を舞台に出来事を綴った小説(by me)/2008年カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞映画原作小説。パリ市内の中学校で教師をしている私は、日々ストレスを募らせていた。私語や反抗が目立つ生徒、妨害される授業、学力格差、校内暴力、人種間の対立など、次々と難題が持ち上がるが、解決の糸口はまったく見えてこない―教育現場の現実をセンセーショナルに描き、フランスでベストセラーを記録したドキュメンタリー・ノヴェル。ラジオ局フランス・キュルチュールと雑誌「テレラマ」共催の文学賞を受賞。 (「BOOK」データベースより)
【感想】図書館の新刊本コーナーに置いてあって裏表紙に書かれてあるあらすじが面白そうなので読んでみたが、ただただコレージュの出来事を綴ってあるだけで何が面白いのかが分からない。フランスでベストセラーとなったらしいが、コレージュの様子を知りたいのならまだしも、多分フランス人以外には(というかコレージュの実際の様子を知らない者)つまらないとしか思えない。訳者あとがきに「だから私は教育の中枢だけに集中する事にしました。それは教室です。教室で日々起こる事をひたすら綴るのです」「ちょっとした場面の積み重ねを通じて、学校と社会の断絶をあぶり出そうとしました」と著者が言っていると書かれてあるが、やはり現状を知らないものにはつまらない。
【ランク】3.5
【読書中メモの総覧】▼アフォリズム▼分かりづらい▼謝罪を強制▼スケーター、スノップ
【備考】2009年4月1日に読み終えた。

2009/03/24

オートフィクション(金原ひとみ)


【タイトル】オートフィクション
【著者名】金原ひとみ
【発行年(初版)】2006年7月10日
【登場人物の年齢層】高校生〜20代(女性)
【概略】主人公である作家のリンによるオートフィクション=自伝的小説として15歳、16歳と短編として22歳を描く(by me)/私は何故こんなにも面倒な人間なのだろう-。オートフィクション(自伝風小説)を書き始める作家。それは彼女が殺した過去の記録であり、過去に殺された彼女の記録でもあった…。(「MARC」データベースより)
【感想】ギャルであるリンの15歳、16歳と結婚してからの22歳が描かれているが、現実的に見たらビッチ&スイーツ(笑)である。心情描写がドロドロしているというかギャルとスイーツ(笑)をよく表されているのかもしれないが、読んでいる読者側としては「主人公うぜえ」的な感情が芽生えたのは否めない。まあこの人種を詳しく知るのであれば良書かもしれないが。
 まあ「蛇にピアス」の映画の予告編を見た限り金原ひとみという著者のスタイルはある程度予想できていたのでこういう小説だろうなとはある程度予想はしていたのだが。
 wikipediaを見てみるとオートフィクションというのは文学ジャンルの一つらしく、「一言でいえば、作者の人生についての現実の物語と、作者が経験した出来事について探求する虚構の物語とが交配したものである。」と書かれている。
【ランク】5.5
【読書中メモの総覧】▼夫に対する過剰な気持ち←一年後薄まる?▼飛行機→主人公の短編▼オートフィクション→自伝的創作▼P16、サナトリウム、ミキシング、蠢く、蛆
【備考】2009年3月24日に読み終えた。