2011/09/27

失楽園 上・下(渡辺淳一)★


【タイトル】失楽園 上・下
【著者名】渡辺淳一
【発行年月日(初版)】2004年01月25日
【登場人物の年齢層】30代〜
【概略】突然閑職に追いやられた敏腕編集者・久木。失意にくれる彼の前に、夫との冷え切った関係を持て余す美しき人妻・凛子が現れる。まるで結ばれるのが宿命であるかのように、ふたりは激しい恋に落ちてしまう。その純粋なる想いを貫き通すため、ふたりは究極の愛の世界へと足を踏み入れる―。「人を愛する」ということは、どういうことなのか?男女の愛の極限を描き切った、渡辺文学の最高傑作。

家庭や社会からの孤立が深まっていくなか、それでも久木と凛子は逢瀬を重ねつづける。逢うごとに、体を重ねるごとに、ふたりの愛と性の密度は高まっていく。やがて訪れる「この愛もいずれは壊れるかもしれない」という不安と怖れ。ふたりの愛を永久不変のなかに閉じ込めるために、彼らが選んだ道はひとつしかなかった…。空前絶後のベストセラーとなった、至高の恋愛小説。
【感想】なんとなく名前を覚えていたので。

 端的に言ってしまえば男女の不倫話なのだが、そんな枠組みには到底収まらない中身である。この書で描かれてある男女の交わりは今まで読んだ本のなかでも特に官能的で、かといって卑猥な印象はない、もはや高尚な域である。

 深い味わいを知った二人が段々そこから抜け出せなくなるのは読んでいて複雑だ。登場人物と同じようにこのまま堕ちていくだろうと思う一方、何らかのきっかけで関係が崩れていくのもあり得る、一体どのようになるのかと思わずにはいられない。阿部定の話からの心中エンドだってあり得る。

 酔った凛子が妖しく久木の首を締める場面はなかなかの狂気を感じた。描かれている普段の様子とのギャップも相成ってなかなかの凄みを出している。

 登場人物の二人の会話は俗っぽさを感じさせない、どこか世間離れした印象を受ける。描かれている世界観も世間から隔離された場所が多い気がする。



 自分はごく一部の例外を除いて自殺は絶対悪だと考えていて、仮にも生命を与えられたのだからどんな形でも全うすべきと考えている人間である。

 など思う一方、この小説のようなこういった心中には非常に崇高で悪くないと感じる。自分は幸せの絶頂で、これからは下りしかないから幸せのうちに共に死ぬと思わせるような相手が果たして存在するのか疑問で、この点で二人を非常に羨ましく感じる。

 上巻を読んだ時点でこのような結末は少しは想像していたが、交わりあい共に達しながら逝くという一種のハッピーエンドは想像できなかった。だが、あえて、心中の引き金となった出来事を考えると、やはり主人公久木の怪文書による子会社への異動だと思う。この出来事によって……と考えてみたが、この出来事がなかったとしても心中という結末に変わりはなかったように思われる。

 Amazonの評価を見るとなかなか手厳しい評価が並ぶ。まあ何とも言えんな。
【ランク】7
【読書中メモの総覧】
【備考】2011年9月下旬に読み終えた。

2011/09/25

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない(桜庭一樹)★


【タイトル】砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない
【著者名】桜庭一樹
【発行年月日(初版)】2004年11月15日
【登場人物の年齢層】中学3年
【概略】大人になんてなりたくなかった。傲慢で、自分勝手な理屈を振りかざして、くだらない言い訳を繰り返す。そして、見え透いた安い論理で子供を丸め込もうとする。でも、早く大人になりたかった。自分はあまりにも弱く、みじめで戦う手段を持たなかった。このままでは、この小さな町で息が詰まって死んでしまうと分かっていた。実弾が、欲しかった。どこにも、行く場所がなく、そしてどこかへ逃げたいと思っていた。そんな13歳の二人の少女が出会った。山田なぎさ―片田舎に暮らし、早く卒業し、社会に出たいと思っているリアリスト。海野藻屑―自分のことを人魚だと言い張る少し不思議な転校生の女の子。二人は言葉を交わして、ともに同じ空気を吸い、思いをはせる。全ては生きるために、生き残っていくために―。これは、そんな二人の小さな小さな物語。渾身の青春暗黒ミステリー。

 扱っている内容は暗くシリアスなはずなのにそれほど強く感じさせない印象。妙に少女まんがチックのメルヘンなイラストも手伝ってそこまで読後に苦い印象は残らない。漫画版を以前どこかで読んでいてあらすじを大まかに知っているからだろうか、それとも耐性が付いたからか。

 読んだ後しばらくして、これは実はなかなかの名作ではないだろうかと思い始めたが、残念ながらそれからしばらく立って理由が思い出せない。主人公の優秀な成長物語としてだろうか。
【ランク】6.5+α
【読書中メモの総覧】
【備考】2011年09月下旬に読み終えた。再読を促す。

2011/09/16

たった一人の反乱(丸谷才一)

【タイトル】たった一人の反乱
【著者名】丸谷才一
【発行年月日(初版)】1972年4月20日
【登場人物の年齢層】
【概略】出向を拒否して通産省をとび出し民間会社に就職した馬淵英介は若いモデルと再婚する。殺人の刑期を終えた妻の祖母が同居し始めたことから、新家庭はとめどなく奇妙な方向へ傾き、ついに周囲の登場人物がそれぞれ勝手な「反乱」を企てるに到る。―現代的な都会の風俗を背景に、市民社会と個人の関係を知的ユーモアたっぷりに描いた現代の名作。谷崎潤一郎賞受賞。
【感想】朝日新聞夕刊にて。

 今から30年ほど前に書かれた作品であるが、古臭さは感じられず、むしろどこか洗練された印象を受ける、今まで読んだことの無いようなタイプの小説である。概略にも書かれてある通り知的で大人の読み物と言ったところである。正直上流階級の風雅な読み物で、特にこれといった感想はない。やたら長いな、ぐらい。まだ早かったかな。
【ランク】6+α
【読書中メモの総覧】引きずり込む訳ではなく、かといって突き放すわけでもない程好い雰囲気
【備考】201109月上旬に読み終えた。

2011/09/13

『上海富裕層の「快楽的生活」』



クーリエ・ジャポン 2011年9月号
『上海富裕層の「快楽的生活」』

上海のカリスマ作家、モデルの日本人や駐在員などの生活が紹介されている。

まるで日本のバブルのような印象を受ける。(実際に体験したわけではなく詳しくは知らないが)カリスマ作家の郭敬明に興味を持った。彼の著作『悲しみは逆流して河になる』を読んでみるか。

日本の異端文学(川村湊)


【タイトル】日本の異端文学
【著者名】川村湊
【発行年月日(初版)】2001年12月19日
【登場人物の年齢層】
【概略】「異端文学とは何か」という問いは、では、日本に「正統的な文学」があるのかという問いにつながる。「異端文学」とは、文学それ自身(の有用性や社会的評価)を白眼視する文学である。文学なんてそれほどのものかよ、という罰あたりな言葉を呟く「文学」の中の異端児である。本書は一九六〇年代から七〇年代にかけての「異端文学」ブームを社会史的、文学史的に整理し、渋沢龍彦、中井英夫、山田風太郎、小栗虫太郎、橘外男、国枝史郎、三角寛、中里介山『大菩薩峠』、渡辺温、尾崎翠、石塚喜久三、団鬼六等を読み解く。
【感想】図書館にてたまたま。

 タイトルに惹かれて読み始めたものの、なかなかだるく、自分の興味のある項目か読み始めるが、それでもだるい始末。完全に新書に慣れていない。


 が、SM文学として宇能鴻一郎の『肉の壁』、団鬼六の『花と蛇』。姉弟、兄妹に着目した渡辺温、尾崎翠。人外の物語を描く橘外男、日影丈吉などおそらくこの新書を読まなかったら知らなかったであろう面々を知ることができて良かった。しかしこれらの作家たちは60~70年代とかなり古く、果たして各々の作品を読了することが出来るのか疑問であるが。


 この新書はあとがきでも述べられているが、文学史的、また時系列的な整序がなく、著者の好みで各々の作家が語られているので、系統的や順序立って読むには不向きである。しかし『異端文学』へ入る入口、きっかけとしていい書物だったのではないかと思う。
【ランク】6
【読書中メモの総覧】
【備考】2011年09月12日に読み終えた。