2009/05/29

風の歌を聴け(村上春樹)


【タイトル】風の歌を聴け
【著者名】村上春樹
【発行年月日(初版)】1982年7月15日
【登場人物の年齢層】成人
【概略】一九七〇年の夏、海辺の街に帰省した“僕”は、友人の“鼠”とビールを飲み、介抱した女の子と親しくなって、退屈な時を送る。二人それぞれの愛の屈託をさりげなく受けとめてやるうちに、“僕”の夏はものうく、ほろ苦く過ぎさっていく。青春の一片を乾いた軽快なタッチで捉えた出色のデビュー作。群像新人賞受賞。(「BOOK」データベースより)
【感想】結構有名な村上春樹のデビュー作ですね。全体的に柔らかく、抽象的で、でもすぐに読み終えられた。まあ正直一回読んだだけじゃ良さが分からないような気もするが、でも一回しか読まない。軽快なタッチであった。
 全く関係ないのだが、小説中に出てきたニーチェの言葉に感銘を受けたので引用しておく。
 「昼の光に、夜の闇の深さが分かるものか。」
【ランク】6+α
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年5月29日に読み終えた。

2009/05/28

リプレイ(ケン・グリムウッド)☆


【タイトル】リプレイ
【著者名】ケン・グリムウッド
【訳者名】杉山高之
【発行年月日(初版)】1990年7月20日
【登場人物の年齢層】大学生〜40歳代
【概略】人生をやり直せることになった男の辿った物語(by me)/ニューヨークの小さなラジオ局で、ニュース・ディレクターをしているジェフは、43歳の秋に死亡した。気がつくと学生寮にいて、どうやら18歳に逆戻りしたらしい。記憶と知識は元のまま、身体は25年前のもの。株も競馬も思いのまま、彼は大金持に。が、再び同日同時刻に死亡。気がつくと、また―。人生をもう一度やり直せたら、という窮極の夢を実現した男の、意外な、意外な人生。(「BOOK」データベースより)
【感想】友人のKの勧めにより読んでみた。「人生のやり直し」という設定はかなりベタな設定であり、果たしてどのように展開していくのか興味を抱きながら読み進めていった。全ての人生のやり直しが決して幸福なものではなく、むしろ人生が強制的にやり直しになってしまうという点では不幸である点でよくありがちな夢物語ではないところがまず最初に面白みを感じた。また、主人公の他にも「人生をやり直す」状態になっている人物が登場し.同じ境遇を味わうものとして惹かれ合うものの、だんだん「人生をやり直す」期間が短くなっていくにつれて不安になっていくところも描かれていて面白い。
 SF小説は今まであまり読んだことがなく、なんとなく「所詮は面白設定によるエンターテイメントだろ」みたいな的確ではないイメージを持っていたのだが、この本を読んだことでSFも普通の小説(この言い方もあまり良くないかもしれない)と同じくさまざまな心情が描かれていたり、また、多彩な読みを可能にする本であることが分かった。とりわけこの本は様々な読みが可能であるし、様々なことが学べるのである。そのなかでも個人的に一番印象に残ったことは時間はたくさんあるようで気がついたら全く残っていない、ということである。これに関して印象に残った本文の一節を挙げる。
 「彼女はタクシーに乗り込むと彼を見上げて、若さは無限だという思い込みと、楽観主義を丸出しにしていった。『大丈夫よ。私たちには解決策を見出す時間はたっぷりあるわ。時間ならいくらでもあるんですもの。』それは幻想であるとジェフは知っていた。あまりにもよく知りすぎていた。」(P.442〜P.443)これは主人公のジェフが何回もの「リブレイ」によって長く生き、そしてもうすぐそのリプレイが終わりを迎えようとしていることで身を以て思っていることであるが、この場面がかなり印象に残った。
 余談であるが、この作品は1988年度の世界幻想文学大賞を受賞したようである。この賞がどれぐらい凄いのかよく分からないが、結構評価されているようである。また、この設定はゲーテの「ファウスト」に影響を受けているようである。ゲーテってこういう設定の本も書くんですね。興味が湧いてきました。
【ランク】7.5
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年5月28日に読み終えた。再読を促す。

2009/05/16

夜のピクニック(恩田陸)


【タイトル】夜のピクニック
【著者名】恩田陸
【発行年月日(初版)】2004年7月30日
【登場人物の年齢層】高校生
【概略】高校3年生のメインイベント、80キロを一日かけて歩ききるイベントで起きた人間関係の変化についての物語(by me)/高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために―。学校生活の思い出や卒業後の夢などを語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。本屋大賞を受賞した永遠の青春小説。 (「BOOK」データベースより)
【感想】久しぶりに高校生が登場人物の小説を読んだと思う。全体的に文章が青春!って感じがして読んでいてなんとなくだが清々しい感じがした。男子校にいる自分にとってこのような人間関係が将来存在するとはとても思えなく、少々羨ましい感じがした。全体的なクオリティは高いが、帯に書いてある池上冬樹のコメント「本書は世代を超えて読み続けられるだろう。子どもからは心の汚れた親へ、親からは純真さを失いそうな我が子へ送られるにちがいない」は少々誇張だ。名作と呼ぶには清々しさが強すぎてリアリティがない。
        *             *
 登場する人物の関係の一つに「異母きょうだい」という設定が出てきたのだが、これは今まで小説を読んで北中で初めての設定である。現実的に見た場合そもそも「異母きょうだい」という存在がまれでさらに同じ学校で同じ暮らすという状況は存在するのか、というあまり関係ない疑問が湧いた。まああり得ないだろう。
【ランク】7
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年5月16日に読み終えた。

2009/05/14

ポトスライムの舟(津村記久子)


【タイトル】ポトスライムの舟
【著者名】津村記久子
【発行年月日(初版)】2009年2月2日
【登場人物の年齢層】成年
【概略】自分の年収と同じ金額の世界一周旅行の費用をためるナガセの物語&上司に苦しむツガワの物語(by me)/お金がなくても、思いっきり無理をしなくても、夢は毎日育ててゆける。契約社員ナガセ29歳、彼女の目標は、自分の年収と同じ世界一周旅行の費用を貯めること、総額163万円。第140回芥川賞受賞作。(「BOOK」データベースより)
【感想】第140回芥川賞の受賞作品だが、正直おもしろくなかった。ナガセの貯金がたまるまでの物語が淡々と描かれているが、ただ物語が描かれているだけでしかない。こういう感じの本はおもしろいという人とつまらないという人と割れることが多いが、残念ながら自分は後者にあたる。自分は小説の深読みができていないのかもしれないとしか言いようがない。「アレグリアとは仕事はできない」のほうがおもしろいと思うが。
【ランク】4.5
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年5月14日に読み終えた。再読を促す。

2009/05/12

車輪の下(ヘルマン・ヘッセ)


【タイトル】車輪の下
【著者名】ヘルマン・ヘッセ
【訳者名】秋山英夫
【発行年月日(初版)】1977年4月
【登場人物の年齢層】少年
【概略】主人公ハンスが勉強のために少年の大切な時間を奪われ、最終的に死んでしまう物語(by me)/天才的な才能を持ち育ったハンスという少年は、エリート養成学校である神学校に2位の成績で合格する。町中の人々から将来を嘱望されるものの、神学校の仲間と触れ合ううちに、勉学一筋に生きてきた自らの生き方に疑問を感じる。そして周囲の期待に応えるために自らの欲望を押し殺してきた果てに、ハンスの細い心身は疲弊していく。勉強に対するやる気を失い、ついに神学校を退学する。その後機械工となり出直そうとするが、挫折感と、昔ともに学んだ同級生への劣等感から自暴自棄となり、慣れない酒に酔って川に落ち溺死する。(wikipedia)
【感想】友人のO君曰くかなり重たく悲惨な物語と言っていたので読んでみたが、予想以上に悲惨ではなかった(それでも最終的に死んでしまうので十分悲惨であるが)。海外の文学では久しぶりの三人称で、読みやすかった。内容は主人公ハンスの一生を語り少年時代の過酷な教育制度を批判したような物語になっている。wikipediaによると1905年に発表されたらしいが、全く持って現在に通ずると思う。教育制度の痛烈な批判は著者であるヘッセの過去から生み出されていることが解説やwikipediaによって書かれている。物語の内容について最後の川に溺れて溺死する部分は少々むなしくまた気に食わない。
【ランク】6.5
【読書中メモの総覧】▼久しぶりに三人称▼現在に通ずる▼DEAD END
【備考】2009年5月12日に読み終えた。

2009/05/06

時計じかけのオレンジ(アントニイ・バージェス)☆


【タイトル】時計じかけのオレンジ
【著者名】アントニイ・バージェス
【訳者名】乾信一郎
【発行年月日(初版)】2008年9月15日(文庫)1980年3月(単行本)
【登場人物の年齢層】15歳
【概略】近未来の高度管理社会。15歳の少年アレックスは、平凡で機械的な毎日にうんざりしていた。そこで彼が見つけた唯一の気晴らしは超暴力。仲間とともに夜の街をさまよい、盗み、破壊、暴行、殺人をけたたましく笑いながら繰りかえす。だがやがて、国家の手が少年に迫る。スタンリー・キューブリック監督映画原作にして、英国の二十世紀文学を代表するベスト・クラシック。幻の最終章を付加した完全版(「BOOK」データベースより)
【感想】名前は聞いた事があったのだが、今まで映画、原作どちらも読んだ事がなかったのだが、ちらっと見た書店のポップを思い出して読んでみた。若者による暴力をこれほど鮮明にかかれたのは読んだ記憶がなく、また、国家によって「善」を強制される事の怖さなどが描かれていて、非常に興味深い本だった。ルドビコ療法という方法によって暴力をしようとすると吐き気や身体に苦痛が生じるようにして犯罪者を矯正するのだが、一種の洗脳によって否応無しに「善」が強制されるのは読んでいてとても苦痛に感じた。また、刑務所教誨師の言葉が後ろの解説に書かれていたのだが、その言葉に感銘を受けたので引用する。「善というものは、心の中から来るものなんだよ。善というものは、選ばれるべきものなんだ。人が、選ぶことができなくなった時、その人は人であることをやめたのだ。」「人は自由意志によって善と悪を選べなければならない。もし善だけしか、あるいは悪だけしか為せないのであれば、その人は時計じかけのオレンジでしかないーーつまり、色もよく汁気もたっぷりの果物に見えるが、実際には神か悪魔か(あるいはますますその両者に取って代わりつつある)全体主義政府にねじをまかれるじんまいじかけのおもちゃでしかないのだ」(A Clockwork Orange Resucked).実はまだこの文章を本文中に見つけられていないのだが、これはA Clockwork Orange Resuckedと呼ばれるアメリカで完全版が再刊されたときについた序文に書かれてあるのかもしれない。
 この作品はキューブリックによって映画化されている。この映画は原作の暴力などを忠実に再現されているらしく、また原作の第7章が削除されているそうなので機会があれば見てみたい。
 この本を読むにあたって一つ失敗したことがある。wikipediaの「時計じかけのオレンジ」(http://ja.wikipedia.org/wiki/時計じかけのオレンジ)のストーリーの項目を先に読んでしまったことである。かなりクオリティの高いあらすじを読んでしまったことで、しょうしょう「次が気になる」気持ちを殺してしまったことは大きな過ちであり、次からは気をつけたい。
 全く持って関係のないことなのだが、この本の解説をしている柳下殻一郎の職業名「特殊翻訳家」というものがどういうものか気になって調べたところ、wikipediaによると、「『特殊翻訳家』の謂いは、普通の翻訳家が手を出さない特殊な文献・文学作品を好んで翻訳することからで、『特殊漫画家』と自称した根本敬から影響を受けた自称である。」と書かれてあった。興味があるので今後彼の訳した本も読んでみたい。
【ランク】7.5
【読書中メモの総覧】▼ハラショー▼特殊翻訳家
【備考】2009年5月6日に読み終えた。再読を促す。