2009/08/23

ダウン・ツ・ヘヴン Down to Heaven(森博嗣)


【タイトル】ダウン・ツ・ヘヴン Down to Heaven
【著者名】森博嗣
【発行年月日(初版)】2006年11月25日初版発行
【登場人物の年齢層】-
【概略】子供はみんな、空を飛ぶ夢を見るのだ。飛べるようになるまで、あるいは、飛べないと諦めるまで—戦闘機に乗ることに至上の喜びを感じる草薙だが、戦闘中に負傷し入院、空を飛べぬ鬱屈した日を過ごすことに。組織に守られる存在となりつつある自分になじめないままに。そしてある日「少年」に出会う。
【感想】「スカイ・クロラ」シリーズ第三作目。主人公がクサナギで、なんだかよかった。この作品で初めてスカイ・クロラの主人公であるカンナミが登場する。
 本作品の解説がとても良かった。エアショーパイロットである室屋義秀氏による解説なのだが、自信が飛行機に乗っている事もあって飛行機屋の思考や心情などが書かれてあって非常に興味深かった。以下印象に残った解説引用。
     *                *
 地上にいる時と飛行機中のコックピット内では、随分思考のプロセスが異なっている。地上にいる時の安息の環境と、地上から遠く離れたコックピットでは、流れる時間のスピードが圧倒的に違う。
 コックピットでは、思考が影を潜め、感性と肉体的反射により瞬間的に動作が繰り返される、性の官能に程近いような状態となる。パイロットと飛行機はまさに、一体化していく。命を掲げて自由を堪能する、究極の世界がそこにはある。
 一方、地上では命を保障されるかわりに、社会的なルールに縛られ自由を失う。日常の雑多な事に振り回され、コックピットの中で感じる時間の何十倍もの時を過ごさなければならない。
 水素が病院で創造した少年は、生と死・自由と社会という狭間で生み出された、パイロット特有の混濁した思考の現れであろう。
 水素の願望である「明るい本当の空へ。もう一度あがっていこう。」という自我の本質的欲求は私も同じなのだろう。わずらわしい人間関係、混沌とした社会のルール、そして営々として築かれてきた文化という名の不文律。大地という安定した水と緑の世界は孤独を消し去り人間集団を築き上げ、個という存在を見失った。
 人は本当の個という存在をなかなか感じられないかもしれない。生まれた瞬間には既に家族があり、社会があった。個とは何か特異な状況の一種かもしれない。
 空にはスホーイに乗る私の存在しかない。機体だけを信じ本当の自由の中で孤独な自分に不安を感じながら飛ぶ、しかし、地上に降りると又空へあがりたくなる。
     *                 *
 この解説が私が「スカイ・クロラ」シリーズに登場するクサナギやカンナミの心情を理解する事を十分に助けた。「ダウン・ツ・ヘヴン」にはさまざまな出来事があったが、この解説が一番印象に残った。同時に、このシリーズの登場人物の思考や心情、行動の理由をより理解し、また楽しめるようになったと思う。この解説がなければ、自分がクサナギや、カンナミの気持ちをあまり理解できなかったかもしれない。
 この解説を忘れずにこれから読んでいこうと思う。
【ランク】-
【読書中メモの総覧】バイアス ストール・ターン
【備考】2009年8月22日に読み終えた。

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