2009/11/28

グレート・ギャッツビー(フィッツジェラルド/小川高義訳)


【タイトル】グレート・ギャッツビー
【著者名】フィッツジェラルド
【訳者名】小川高義
【発行年月日(初版)】2009年9月20日初版
【登場人物の年齢層】成人
【概略】 絢爛豪華な邸宅に贅沢な車を持ち、夜ごと盛大なパーティを開く男、ギャッツビーがここまで富を築き上げてきたのは、すべて、かつての恋人を取り戻すためだった。だが、異常なまでのその一途な愛は、やがて悲劇を招く。過去は取り返せる—そう信じて夢に砕けた男の物語。(「BOOK」データベースより)
【感想】「ノルウェイの森」で登場して興味をもったのがきっかけ。
 一度村上春樹訳のを読み始めたものの、途中で挫折してしまったので今回光文社から出てた新訳で再挑戦した。アマゾンのレビューにも書かれていたが、こちらの訳の方が村上春樹訳よりも読み進めやすい印象だった。(ただ村上春樹訳は全て読めてないので何とも言えないが)
 内容は富を成した男のかつての恋人への一途な思いによって破滅していく物語である。一度読んだ限りではよくありそうな小説+αという印象しかなかった。文章の抽象的なラストなどは凡庸な小説よりもすばらしいなと思えるが。解説を読む限りさまざまなコントラストや文章の暗喩が仕掛けられているようだが、やはり解説を読まないと面白さが理解できないあたり、まだまだ読むのが早すぎたかもしれない。村上春樹訳も読まなければ。
【ランク】6?
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年11月26日に読み終えた。

2009/11/18

僕のなかの壊れていない部分(白石一文)


【タイトル】僕のなかの壊れていない部分
【著者名】白石一文
【発行年月日(初版)】2005年3月20日文庫初版
【登場人物の年齢層】成人
【概略】見えるものばかり追いかけてばかりいたら、人はどんなことにでも絶望するしかなくなってしまう。過去のトラウマにより、驚異的な記憶力を持つ、非凡な青年。彼には、才色兼備のスタイリストの恋人と、子持ちのバーのママである愛人、SMプレイ相手の人妻という女性関係があり、さらに家庭教師の元生徒だった少女と、たまに泊まりに来る弟のような青年という疑似家族がある。愛について、生と死について、突き詰めて考えずにいられない彼の内面を通して、作者は「何が一番大切なのか」を問いかける。 デビュー作『一瞬の光』で注目を集め、村上春樹にも比較される異才の最高傑作。書き下ろし。
【感想】著者の他の作品を朝日新聞書評で読んだのがきっかけ。
 出版社勤務の主人公が自身の人間関係を通じて生死について考える物語・・・といったところか。正直このような形式の小説は読んだことがない。実質の物語の量と主人公による自問の量があまり変わらない。読んでいてときどき今自分は評論文を読んでいるのか、と思わせるほどの自問と物語のバランスである。
 このような哲学的で難易度の高い小説を一度通読しただけで感想を出すのはやや安直である。さらに、小説という形式をとっているのでどこを読めば主張の要旨がわかる、といったことがない。(あるかもしれないが今のところ分からない)そのためもう一度再読をする必要がある。
  ダ・ヴィンチ09年03月号において著者の白石一文は言いたいことを何とかして読ませたいから小説の形式をとっている、クスリに味をつけている感じ、と述べている。著者の主張を理解するにはやはり一回だけの通読では不可能なのでもう一度読もうと思う。
【ランク】6?
【読書中メモの総覧】▼物語を読んでいる感じがしない
【備考】2009年11月17日に読み終えた。再読必須。

2009/11/12

犯人に告ぐ(雫井脩介)☆


【タイトル】犯人に告ぐ
【著者名】雫井脩介
【発行年月日(初版)】2004年7月ハードカバー初版
【登場人物の年齢層】3,40代
【概略】闇に身を潜め続ける犯人。川崎市で起きた連続児童殺害事件の捜査は行き詰まりを見せ、ついに神奈川県警は現役捜査官をテレビニュースに出演させるという荒技に踏み切る。白羽の矢が立ったのは、6年前に誘拐事件の捜査に失敗、記者会見でも大失態を演じた巻島史彦警視だった—史上初の劇場型捜査が幕を開ける。第7回大藪春彦賞を受賞し、「週刊文春ミステリーベストテン」第1位に輝くなど、2004年のミステリーシーンを席巻した警察小説の傑作。(「BOOK」データベースより)
【感想】「ダ・ヴィンチ」の特集、及び映画を昔見たのがきっかけ。
劇場型犯罪に対し劇場型捜査で対抗し、犯人を追い詰めていく物語である。
 非常に興奮し、面白かった作品だった。読んでいて久しぶりに早く先が読みたいと思った作品である。
 まず読んでいて印象に残ったことは、非常にリアリティに溢れ、人間味があることである。平凡な小説は主人公の心情描写にどこか小説ならではの心情、という部分が見受けられることがある。例えばもっと嫉妬するような場面でも異様にクールだったり、こんなに思惑通りに進むわけないだろ、という場面が見受けられることがある。
 しかし、この小説は人間の心情や欲望に忠実である。上司が女性の気を引くために捜査情報を流したり、犯人と思わしき人物を発見して手が震えたり。極めつけは主人公が犯人逮捕失敗の記者会見での記者達の執拗な責めに逆ギレして「他人の子なんてどうやったって感情移入に限界があるんだ!」と言ってのけたり。確かに自分の子供と殺された子供には感情移入に差が生まれるのは当然の事なのだが、それでも普通は口にしない。人間らしさが滲み出ている。これほど人間味のある小説だとは思わなかった。
 さらに、捜査情報をニュース番組にリークしている人物をあぶり出す場面も非常にわくわくした。私用のために捜査の邪魔になるような行動をとった上司へ一泡(そのレベルを超えてるとも言えるが)吹かせるのは読んでいて面白かった。
 だが、一番印象に残るのは犯人に対してニュース番組で主人公が逮捕へ終止符を打つときに言う台詞である。以下引用。
『[バットマン]に告ぐ。』『お前は包囲された。』『多少時間がかかったが、我々はようやくお前を追いつめた。逮捕はもう時間の問題だ。逃げようと思うな。失踪した人間は真っ先にマークする。今夜は震えて眠れ。』『手紙を落とした失態を悔やんでも遅い。余興は終わった。これは正義を全うする捜査であり、私はその担い手だ。お前は卑劣な凶悪犯であり、徹底的に裁かれるべき人間だ。それをわきまえなかったお前の甘さが致命的だったと言っておく。正義は必ずお前をねじ伏せる。いつかは分からない。おそらく正義は突然、お前の目の前に現れるだろう。首を洗ってその時を待っていろ。以上だ。』この言っている情景を想像するだけで背筋が凍るような思いがする。映画版をもう一度見てみよう。
 現実的な内容かと言ったら疑問符がつくが、ミステリーというものはそういうものであり、またその枝葉な部分を超越するクオリティの高さと面白さがあった。映画をもう一度見ようと思う。
【ランク】8
【読書中メモの総覧】-
【備考】2009年11月9日に読み終えた。

2009/11/11

キャッチャー・イン・ザ・トイレット!(伊瀬勝良)


【タイトル】キャッチャー・イン・ザ・トイレット!
【著者名】伊瀬勝良
【発行年月日(初版)】2009年9月6日初版
【登場人物の年齢層】 中学・高校生
【概略】ある新人作家がweb上で発表した小説「OM」(大人の事情により略称)は、口コミやネットでの書き込みで一気に広まり、瞬く間に絶賛を浴びた。この「知る人ぞ知る」名作に、出版各社からのオファーも殺到。大幅な加筆修正の末、性別不問・全世代対応の青春文学が、ここに待望の書籍化。忘れられない「あの日の感情」がここにある。(「BOOK」データベースより)
【感想】どこかの書評に載っていたのを読んだのがきっかけ。
 主人公の秘密をいじめられっ子の女子に知られ、そこから復讐劇に巻き込まれ、最後には罪をカミングアウトして罪を償おうとする、という概略であるが、正直リアリティは皆無でファンタジー小説である。(著者もファンタジー小説であると述べている)主人公が犯した行動をカミングアウトする選択肢なんてまずあり得ないし、その後に対象となった女子に話しかけられるのも不可思議である。同窓会に呼ばれるのもあり得ない。
  この小説はリアリティ云々ではなく、著者が造り上げた世界に嵌まってみる、という読み方が正しい。決して実際は何々などの考えを持ってはいけない。実際にこうだったら面白いな、という感じである。いい気分転換になったと考えよう。

  タイトルがサリンジャーの「ザ・キャッチャー・イン・ザ・ライ」を彷彿させるな、と一瞬思った。若い青年と一人称の語りという共通点も有ったな。
【ランク】4
【読書中メモの総覧】 -
【備考】200911月11日読了。

2009/11/05

ニューナンブ(鳴海章)


【タイトル】ニューナンブ
【著者名】鳴海章
【発行年月日(初版)】2002年6月28日初版
【登場人物の年齢層】成人
【概略】一線を踏み超えた警察官は、正義に到達できるか。かつて目の前に突きつけられた銃口。撃鉄が落ち、眉間を貫いた金属音—。善と悪の境界を見失うことの絶対的な孤独。撃つことは「赦し」なのか。衝撃の書下ろし長編小説。 (「BOOK」データベースより)
【感想】「ダ・ヴィンチ」の警察小説の特集を読んだのがきっかけ。
 自分の正義に固執するばかりに法律を逸して暴走する警察官の物語・・・という概略に惹かれて読み始めたはずだったのに、内容はコネで入社した若干アウトローな警官の自己の問題と正義を求めるというもので自分が期待した物語ではなかった。さらに、終わりかたがあっけない。暴走した連続殺人犯に殺されて終わりというなんとも後味の悪い終わりかただった。確かに事件がどうなったかはこの小説の本筋とは関係ないのかもしれないが・・・
 警察官が所持している拳銃の名前が「ニューナンブ」ということがわかったくらいだった。
【ランク】4
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年11月5日に読み終えた。

2009/11/03

O嬢の物語(ポーリーヌ・レアージュ 澁澤龍彦訳)


【タイトル】O嬢の物語
【著者名】ポーリーヌ・レアージュ
【訳者名】澁澤龍彦
【発行年月日(初版)】1992年6月4日初版
【登場人物の年齢層】成年
【概略】パリの前衛的な出版社ポーヴェルから1954年に刊行された本書は、発表とともにセンセーションを巻き起こし、「ドゥー・マゴ」賞を受賞した。女主人公の魂の告白を通じて、自己の肉体の遍歴を回想したこの書物は、人間性の奥底に潜む非合理な衝動をえぐり出した、真に恐るべき恋愛小説の傑作と評され、多くの批評家によって賞賛された。(文庫裏表紙)
【感想】雑誌に「完訳 Oの物語」の広告が載っていたのがきっかけで読み始めた。amazonのレビューを見る限り澁澤龍彦訳の方が物語として読みやすいという印象を受けたので澁澤龍彦訳の方を読んだ。
 内容は自ら自由を放棄して奴隷状態になった女性の物語である。直接的な描写はほとんどなく、オブラートに包まれた描写で描かれている。あとがきでも触れられているが、官能の興奮の描写は極力排除されている。だから村上龍の「エクスタシー」を読むような気持ちで読み始めた自分はやや場違いな感じがした。また、文全体からも非常に高尚な感じがする文体で描かれている事も驚きの一つである。非常に想像力を使う描写も多い。
 文庫裏表紙にも書かれているが、このOの行動は非常に非合理的な衝動である。何らかの事情で余儀されなくなったのならまだしも、結果的に自らこのような状況に入り込むのは世間一般の人間からすれば非常に馬鹿げた行動である。だがやはりこの行動は理屈云々のものではない。理解できる者には非常に美しい小説といえるのかもしれないが、自分のような理解できないものにとっては非常に痛々しく、理解不能な小説である。鞭を打ったり、焼ごてで自分の名前を刻むという行動は自分にとっては欲望を満たすようなものではないと思う。村上龍の「エクスタシー」のほうが断然理解できる。ここまで来ると自分自身の好みの問題となるのだろうか。
 「完訳 Oの物語」では続編である「再びロワッシーへ」も収録されているらしいが、購入してまで読もうとは思わない。
 17年前に出版された書物という事で漢字が難しくやや読み辛かった。
【ランク】6.5α
【読書中メモの総覧】-
【備考】2009年10月25日に読み終えた。再読を促す。