2011/02/23

ジーキル博士とハイド氏(スティーブンスン、村上博基訳)

【タイトル】ジーキル博士とハイド氏
【著者名】スティーブンスン
【訳者名】村上博基
【発行年月日(初版)】2009/11/20
【登場人物の年齢層】大人
【概略】街中で少女を踏みつけ、平然としている凶悪な男ハイド。彼は高潔な紳士として名高いジーキル博士の家に出入りするようになった。二人にどんな関係が?弁護士アタスンは好奇心から調査を開始するが、そんな折、ついにハイドによる殺人事件が引き起こされる。
【感想】 図書館でたまたま。


 いわゆる善の人格であるジーキル博士が、悪の塊かのようなハイドという人格を形成し喜びをもっていたが、次第にハイドにジーキルが飲み込まれていくなかでジーキルの苦悩の告白は、心にぐっと来た。なんというか、哀れや寂しさ、また一種の小さな羨望がミックスされた感じである。


 ハイドという人格には素直に羨ましい。理性や倫理にコントロールされないのは、決して得ることのできないモノだから。ただ、ジーキルのように次第に飲み込まれていくことに抗うことができるかと聞かれると極めて難しい、ハイドを制御できる自信はほとんどない。そういう無条件的な悪への欲求に対抗できない人間をうまい物語で表すことが出来た作品だと思う。


 正直こういう有名な古典=難解という先入観を持っていたが、この作品は予想よりも平易な文章で書かれていてで読みやすかった。この訳だからかも知れないが。


 解説において映画と原典におけるハイド氏の描かれ方のギャップについて述べられていたが、幸か不幸か私はこの映画を見た記憶がないので、先入観無しでハイド氏の描写を認識することができた。
【ランク】6+α
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2011/02/22に読み終えた。

2011/02/19

真昼なのに昏い部屋(江國香織)

【タイトル】真昼なのに昏い部屋
【著者名】江國香織
【発行年月日(初版)】
【登場人物の年齢層】
【概略】会社社長の夫・浩さんと、まるで軍艦のような広い家に暮らす美弥子さんは、家事もしっかりこなし、「自分がきちんとしていると思えることが好き」な主婦。大学の先生でアメリカ人のジョーンズさんは、純粋な美弥子さんに心ひかれ、二人は一緒に近所のフィールドワークに出かけるようになる。時を忘れる楽しいおしゃべり、名残惜しい別れ際に始まり、ふと気がつくとジョーンズさんのことばかり考えている美弥子さんがいた―。(BOOKデータベースより)
【感想】ダヴィンチより。


 柔らかい。みずみずしい。という印象である。江國香織の小説を読むのはこれが初めてだが、予想したよりも増して柔らかい。


 端的に言えば不倫を取り扱った小説なのだが、終盤まではあまり背徳感を感じさせない。むしろ、つづじましい感じがする。しかし最後ではそういった雰囲気が急激に変化し、現実世界的な印象を帯びる。


 偶然これを借りた頃、現代文の授業で同じ著者による「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」の一部分を取り扱っての授業が始まりそうである。授業が非常に楽しみであると共に、この作品もぜひ読んでみたい。
【ランク】6.5
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2011/02/16に読み終えた。

2011/02/18

議論のウソ(小笠原 喜康)


 図書館でたまたま。


 終章で述べられていたのだが、この本は例えば統計の罠や論理の矛盾を明かす方法論について書かれているのではなく、様々なテーマを取り上げ精査し、一つの「正答」を導くのは極めて難しいという結論を出している。

 確かにその結論には納得し、なるほどなとは思ったが、だったらこのタイトルと帯は本の内容を的確に表してはいない、わりと詐欺に近いのではないかと思う。確かに魅力的なタイトルをつけるのはいいとは思うが。

2011/02/11

背の眼(道尾秀介)



【タイトル】背の眼
【著者名】道尾秀介
【発行年月日(初版)】2005年1月
【登場人物の年齢層】少年~老人
【概略】児童失踪事件が続く白峠村で、作家の道尾が聞いた霊の声。彼は恐怖に駆られ、霊現象探求所を営む真備のもとを訪れる。そこで目にしたのは、被写体の背中に人間の眼が写り込む、同村周辺で撮影された4枚の心霊写真だった。しかも、彼ら全員が撮影後数日以内に自殺したという。これは単なる偶然か?第5回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作。
 「ゴビラサ…」道尾の前で謎の言葉を呟いた男は、数日後に刺殺体で発見された。やがて、彼の残した言葉と度重なる霊現象が結びついた時、孤独な少年の死に端を発した一連の事件にまつわる驚愕の真実が明らかになる。美貌の助手を伴う怜悧な霊現象探求家・真備と、売れないホラー作家・道尾のコンビが難事件に挑む。(BOOKデータベースより)
【感想】 友人より。


 なんというか至極普通なミステリーだった。この作家は「向日葵の咲かない夏」の印象が強すぎてそれに匹敵するインパクトを求めていたのだが、残念ながら期待外れだった。この作品は「向日葵」より前に書かれたデビュー作にあたるようだが、以前書かれた作品、しかもデビュー作に同じ期待をするのは酷かもしれないが…解説に否定的な審査員の寸評が載っていたが、自分もやや似ていて話が冗長すぎてだるいことに尽きる。もちろん物語のなかで伏線を回収するのに必要なのだが。なんとなく最後の方では集中力が切れていた勘が否めない。


 こうして分かるのは、自分はあまりミステリー、推理小説が好きではないのかもしれないということだ。事件が起きる、主人公を含むグループが調査する、最後に犯人を特定して説明する。このような小説にあまり面白味を感じない、あまりミステリーを読まないからかもしれないが。その点「向日葵」は先にあげたタイプから逸脱しているから好きなのかもしれない。
【ランク】5.5
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2011/02/11に読み終えた。

2011/02/09

共生虫(村上龍)

 

【タイトル】共生虫
【著者名】村上龍
【感想】書店にて。

 相変わらず村上龍作品は抽象的だな、と思っていたが、今回は今まで読んだ作品に比べてメッセージが分かりやすい。特「あとがき」が書かれている辺り珍しいな、という印象である。

 どうやらこの作品に関連して、「共生虫ドットコム」が期間限定で運営されていたり、また、「共生虫」に関する対談や主人公であるウエハラの精神分析など様々な内容をまとめた本が出版されるなどメディアミックスを展開したり、また、この作品が少年犯罪の連続事件のあと話題になった小説であることが解説で述べられている。これら一連の出来事にリアルタイムで立ち会えなかったのは非常に残念であるが、今から追体験をすることも可能だと思うので、早速この出版物を購入して読んでみたい。

 小説に関しては一読した限りだが、村上龍らしさを感じさせた。また、読む必要あるのか?という箇所が何ヵ所かあったりもした。

 以上が読んだ後書いた感想である。一応共生虫ドットコムを購入したのだがDVDが付属されてなくて萎えて読まないまま放置してしまった。一応形にはしとかないとな。機会があったら読み直すか。
 
【ランク】6+α
【備考】2010/12/05に読み終えた。

ノルウェイの森上・下(村上春樹)


 再読。以下読んでいて思ったことのメモ。2011/02/07に読み終えた。



 一つのストーリーとしてはっきりと定まっている感じではない、不安定で柔らかい感じ。特に主張するのでもなく、物語の雰囲気をより重視する。現実世界の空しさや悲哀を切り抜いた感じ。

 唐突に死ぬ。この前の章で快方に向かっているという記述のあった直後である。

 直子の自殺に深く悲しみ、自暴自棄にすらなっていたのにも関わらず、今(上・第一章)では記憶が薄れていくことの虚しさ、悲しさ。そして死んだ後緑が直接登場しないことのなんとも言えない感じ。見方によって何十もの読み方が出来る可能性を秘めている。こういう作品を現代文の授業でやったらなあ。


 なんて言うか感想をしっかり書けない。以前に比べたら進歩しているかもしれないが・・・これをまとめる気はさらさらない(まとめられない)。

2011/02/03

掏摸(中村文則)

【タイトル】掏摸
【著者名】中村文則
【発行年月日(初版)】2009/10/30
【登場人物の年齢層】子供~30代
【概略】お前は、運命を信じるか?東京を仕事場にする天才スリ師。彼のターゲットはわかりやすい裕福者たち。ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎―かつて一度だけ、仕事を共にしたことのある、闇社会に生きる男。木崎はある仕事を依頼してきた。「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。もし逃げれば…最近、お前が親しくしている子供を殺す」その瞬間、木崎は彼にとって、絶対的な運命の支配者となった。悪の快感に溺れた芥川賞作家が、圧倒的な緊迫感とディティールで描く、著者最高傑作にして驚愕の話題作。(BOOKデータベースより)
【感想】ダヴィンチより。

 主人公に微かな望みを持たせて終わる話は嫌いじゃない。むしろ、スリをするような反社会的人間を主人公に置いてハッピーエンドで終わらせる方が嫌いだ。その点でこの作品はいい。ただ、なんというか曖昧な印象しか残らなかった。これが作者の持ち味なのかもしれないが、どうせならどちらかの悪を強烈に印象づけて欲しかった。
【ランク】6
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2011/02/02に読み終えた。