2009/10/30

ロコモーション(朝倉かすみ)


【タイトル】ロコモーション
【著者名】朝倉かすみ
【発行年月日(初版)】2009年1月25日初版
【登場人物の年齢層】子供〜40代
【概略】小さなまちで、男の目を引く「いいからだ」を持て余しつつ大人になった地味な性格のアカリ。色目を使われたり「むんむんちゃん」などのあだ名をつけられたりしない静かな生活を送りたくて、大きなまちに引っ越し、美容関係の仕事を見つけた。しかし、新しくできた屈託のない親友、奇妙な客、奇妙な彼氏との交流が、アカリの心の殻を壊していく—。読む者の心をからめ取る、あやうくて繊細でどこか気になる女のひとの物語。(「BOOK」データベースより)
【感想】昔どこかの雑誌か書評に載っていたのがきっかけで読み始めた。
 感想が浮かばないというのが感想である。話は一貫した筋かあるのだが、そこから何か考えやこれといった印象が浮かぶ訳でもない。このような抽象的描写がかなりの核を占めている作品は感想が難しい、と言い訳する。言い換えればそれだけの小説なんだ、とも言えるがさすがにそれは傲慢だろう。
 おそらくこのような作品は共感を呼べるか否かで評価が別れるのではないかと思う。残念ながら今の自分にはあまりにも理解できない行動が多すぎて共感は抱けなかった。こういう心情を理解できない辺り、まだまだ人間的に未熟なんだろうか。
【ランク】5
【読書中メモの総覧】-
【備考】2009年10月30日に読み終えた。

2009/10/27

八月の路上に捨てる(伊藤たかみ)


【タイトル】八月の路上に捨てる
【著者名】伊藤たかみ
【発行年月日(初版)】2006年8月30日初版
【登場人物の年齢層】30代
【概略】暑い夏の一日。僕は30歳を目前に離婚しようとしていた。現代の若者を覆う社会のひずみに目を向けながら、その生態を軽やかに描く。第135回芥川賞受賞作ほか1篇を収録。 (「BOOK」データベースより)
【感想】「O嬢の物語」の感想を考えている間に読んだ。あっという間に読み終えた。
喪失をテーマに主人公の離婚までの過程などが描かれているが内容はいたって平凡で特に感想が思い付かなかった。それよりも表題作のほかに掲載された作品の『貝からみる風景』がユーモアがあって面白かった。
どうやらこの作品は芥川賞受賞作品のようだ。ちょっと選考基準が分からないし、あまりにサラッと流れて重みが感じられないと思ったのだが。
【ランク】5
【読書中メモの総覧】-
【備考】2009年10月26日に読み終えた。

2009/10/15

向日葵の咲かない夏☆ (道尾秀介)


【タイトル】向日葵の咲かない夏
【著者名】道尾秀介
【発行年月日(初版)】2008年8月1日文庫版
【登場人物の年齢層】小学生
【概略】夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。きい、きい。妙な音が聞こえる。S君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」と訴えながら。僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追いはじめた。あなたの目の前に広がる、もう一つの夏休み。(「BOOK」データベースより)
【感想】「O嬢の物語」の間に読んだ。(新型インフルエンザで出席停止中)1日で読み終えた。またブックオフで購入。以前朝日かどっかの書評に載っていたのをきっかけに読んでみた。
 感想はまず、衝撃的だった。というのか小説を読んだあとにあのようにいてもたってもいられないという気分になったのは初めての経験である。部屋のなかを意味もなくうろうろしてしまった。本格ミステリであるとは思っていたが、このような作品だとは思っていなかった。
 最初は比較的普通であった。主人公ミチオが友人宅で友人の死体を発見し、学校で報告するが警察が見に行ったときには既に消えている………
 おかしくなりはじめたのは死んだはずの友人が蜘蛛となって蘇ってからである。そんなことが有り得ていいのか、と思いつつも進んでいく。以下、物語の出来事、特に印象的な場面と私の心情。
トコ婆さん怪しい念仏(非科学的だがまあいいか)、蜘蛛となった友人を見たスミダさんの対応(そんな簡単に納得していいのかよ)、ミカの三歳とは思えぬ発言(異常に大人びてるな)、岩村先生の変態性癖発覚(加速する狂気だなぁ、でも小説としての問題はない)、女郎蜘蛛を友人がいるケースに入れる(加速する狂気だなぁ、でも小説としての問題はない)、ミチオが寝ている妹のミカの指を口に含む(どんどん狂気が加速するな)、〔やや飛ぶ〕人蜘蛛を潰す(えぇー、潰してええんかい)、潰したその蜘蛛をミカが食べる(はぁ!?、食べる方もあれだが食べさせるミチオもなんなんだ、〔ここからノンストップで訳が分からなくなり始める〕)、名探偵コナン顔負けの推理を始める(ミチオ小4かよ)、殺されたトコ婆さんが生まれ変わった三毛猫だと分かる(トコ婆さんも人間じゃないのか)、後ろの席のスミダさんが百合の花だと分かる。(訳が分からない) 、ミカがトカゲだと分かる(意味不明)、ミチオがお爺さんを殺す(ありかよ)、お爺さんがカマドウマとして復活する(意味不明)、友人をミチオが自殺さ
せたことが分かる(最初からかよ)、ミチオが家に火をつける(加速する狂気だがいよいよ訳が分からない)、家族みんなが平然と会話して終わる(わけわかめ)

 といった流れである。ダラダラ書き続けたのは出来事とそれに対する自分の心情を書き記しておきたかったからである。それほどこの作品に対する心情の変化が激しかったからだ。
 読み終えた当初は全くもって訳が分からなかったし、落ち着いていられず部屋の中をうろうろしていたが、落ち着いて解説を読んだり読み返してこの謎を考えてみると、これはすなわちミチオの誇大妄想なのか、という考えに落ち着いた。解説を読んでみても主人公のねじれた主観、誤解幻想云々が話題にされていることや、ネット上の解説を読んでみても間違ってはいないと思う。それにしても本格ミステリというものはこういうものも含むのか。イマイチこのジャンルのことがよく分からない。
また、これはネット上の解説をみて知ったのだが、最終的にはミチオを助けるために両親は死に、ミチオは一人になったことが最後の描写「太陽は僕たちの真後ろに回り、アスファルトには長い影が一つ、伸びていた。」から分かる。この描写には違和感を覚えていたがそういう意味だったとは。確かに親戚がミチオを引き取るということが書かれていることからも分かる。
 解説でも述べられていたが、主人公のねじれた主観を本格ミステリにまで仕立てあげるのはかなりの文章力がいる。この道尾秀介という作家は並外れた文章力がある。
 また、本筋ではないと思いつつも「加速する狂気」というキーワードをテーマに本書に着目したい。この「加速する狂気」というキーワードは「向日葵の咲かない夏」には全く出てこず、関係ないが最近「加速する狂気」に纏い付かれた行動が描かれている小説を中心に読んでいるなか、本作品も例外なく、むしろ予想以上にその人物や行動が見受けられた。岩村先生の変態性癖はもちろん、お爺さんの足の骨を折る行動、ミチオが女郎蜘蛛を友人蜘蛛がいるケースにいれたり、お爺さんを殺したり。ミチオは行動のほとんどがが「加速する狂気」に纏い付かれたと言えなくもない。こうした「加速する狂気」に纏い付かれた人物や行動を見るのは非常に面白い。その点でもこの小説は秀逸である。ただミチオが10歳という設定はかなり無理があると思うが、母親からの影響と考えれなくもないから許容範囲だろう。
 朝日書評や解説には好き嫌いの別れる作品だと書かれてあった。私は嫌いではない。小説の新しい可能性を見してもらった極めて面白く秀逸な作品であった。

今気付いたがミチオは著者の名前じゃないか。全然気付かんかった。
【ランク】8.5
【読書中メモの総覧】▼加速する狂気▼奇想天外な場面▼ミカが三歳?▼ミチオも変態▼ミチオも小4?▼引きずり込まれる▼予想を裏切る▼ノンストップで訳が分からない▼人じゃない!?▼精神に干渉する(初めての体験)▼衝撃的▼カオスすぎる
【備考】2009年10月12日読了。再読必須。

2009/10/05

君たちに明日はない(垣根涼介)


【タイトル】君たちに明日はない
【著者名】垣根 涼介
【発行年月日(初版)】2007年10月1日文庫版
【登場人物の年齢層】30-40代
【概略】「私はもう用済みってことですか!?」リストラ請負会社に勤める村上真介の仕事はクビ切り面接官。どんなに恨まれ、なじられ、泣かれても、なぜかこの仕事にはやりがいを感じている。建材メーカーの課長代理、陽子の面接を担当した真介は、気の強い八つ年上の彼女に好意をおぼえるのだが…。恋に仕事に奮闘するすべての社会人に捧げる、勇気沸きたつ人間ドラマ。山本周五郎賞受賞作。(「BOOK」データベースより)
【感想】ブックオフで衝動的に購入。4、5時間程で読了。久しぶりのエンターテイメント小説である。「O嬢の物語」の合間に読もうと思っていたがあっという間に読み終えてしまった。
首切り請け負い会社につとめる主人公を中心に巡るヒューマンドラマを描いている。
この著者の作品を読むのは初めてだが、非常に魅力的な人物を描いている。主人公にしても、何かよく分からないが惹き付けられる部分があった。また、曖昧な描写はなく読みやすい。表現に頭を悩ませることはなかった。結構露骨な性的描写があることは意外だったが、人間味を帯びていて悪くはないと思う。こうやって何冊かにいっぺんエンターテイメント寄りの小説を読むのはいい息抜きになるし、読書の楽しみの一つを再認識できると思う。
この作品の続編に「借金とりの王子」という作品があるらしいので機会があれば読んでみたい。
【ランク】6.5
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2009年10月5日に読み終えた。

2009/09/30

エクスタシー2(村上龍)


【タイトル】エクスタシー
【著者名】村上龍
【発行年月日(初版)】1995年4月25日(文庫)
【登場人物の年齢層】20〜30代
【概略】ニューヨークでホームレスをしているヤザキとカタオカケイコ、レイコによる麻薬とセックスを絡めた快楽の話と主人公のミヤシタによる物語(by me)/「ゴッホがなぜ耳を切ったか、わかるかい」とそのホームレスの男は僕に日本語で話しかけてきた。ニューヨーク、ダウンタウンのバウアリー。男は、「ここに電話してオレと会ったことを言えば、お金を貰えるよ」と紙切れをくれた。東京のケイコと、パリのレイコと男、恍惚のゲームは果てしなく繰り返される。国際都市を舞台に、人間の究極の快楽を追求した長編小説。(「BOOK」データベースより)
【感想】以前読んだ本の再読。一回目の感想。
 予想はしていたが二回読んでもやはりこの小説はインパクトが強い。麻薬を服用しているときの描写やエックスを服用してのSMの描写など、村上龍は絶対に麻薬を服用したことがあるに違いないと思わせる内容である。よく麻薬の使用を撲滅使用とするときに「ダメ。ゼッタイ。」というキーワードが浮かんでくるが、小説中のような状態が得られるのであれば、体という代償を払ってでも服用に価値を見い出せると思う。特にエックスに関しては中毒性もある程度低いのではないか。そこまで思わせるような麻薬の描写だ。
また、SMの描写も羨ましいと思わせる強烈な内容である。一度体験してみたいなと本気で思わせる。

 一回目にはあまり着目していなかったが、最後にミヤシタが破滅に向かう途中で様々な情景がフラッシュバックする場面がある。段々句読点が無くなっていき最後に句読点なしで一気に進む文があるが、なんというか流れというのか、とにかくすばらしい描写であった。脳内でビートが刻まれていったように感じた。

 この小説は三部作のうちの一つであることをネットから知った。残りの「メランコリア」「タナトス」が早く読みたいが、その前に「O嬢の物語」を読まなければ。
【ランク】7.5
【読書中メモの総覧】なし
【備考】二回目。2009年9月30日に読み終えた。再読を促す。

2009/09/16

ノルウェイの森 上・下(村上春樹)





【タイトル】ノルウェイの森 上・下
【著者名】村上春樹
【発行年月日(初版)】1991年4月15日(文庫)上・下
【登場人物の年齢層】大学生
【概略】暗く重たい雨雲をくぐり抜け、飛行機がハンブルグ空港に着陸すると、天井のスピーカーから小さな音でビートルズの「ノルウェイの森」が流れ出した。僕は 1969年、もうすぐ20歳になろうとする秋のできごとを思い出し、激しく混乱していた。——限りない喪失と再生を描き新境地を拓いた長編小説。(著者からの内容紹介)上/あらゆる物事を深刻に考えすぎないようにすること、あらゆる物事と自分の間にしかるべき距離を置くこと—。あたらしい僕の大学生活はこうして始まった。自殺した親友キズキ、その恋人の直子、同級生の緑。等身大の人物を登場させ、心の震えや感動、そして哀しみを淡々とせつないまでに描いた作品。(「BOOK」データベースより)
【感想】村上春樹作品に挑戦。
 予想以上に読みやすくて驚いた。今まで村上春樹作品は言い回しが多くて読みにくい、という印象があったが、この作品はそんなことはなく、上下あわせて二日ほどで読み終えてしまった。
 内容は大学生の恋愛物語である。この作品の主人公であるワタナベはかなりクールといえばいいのか、よくありそうな「大学生ライフを楽しむぞ!」という感じの大学生ではなく、冷淡な感じの大学生である。「…僕はそれほど強い人間じゃありませんよ。誰にも理解されなくていいと思っているわけじゃない。理解しあいたいと思う相手だっています。ただそれ以外の人々にはある程度理解されなくても、まあこれは仕方ないだろうと思ってるだけです。あきらめているんです。」というような人物である。喪失というキーワードのもと、親友や恋人を亡くす哀しみや、生活していくなかでの思いが綴られている。

 正直この作品は感想が難しい。読了後思ったことは多々あるが、文章にすることができない。それは未熟な国語の能力のせいでもあるが、感想がぼんやりしているのだ。試みたものの、いまいちしっくり来ない。ただこれまで読んだなかでかなり優秀な作品であることは間違いないのだが。もどかしい。とか言っているがまあ逃げですね。
主人公がフィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」を愛読していたので、読んでみたいと思う。
【ランク】7
【読書中メモの総覧】予想以上に読みやすい/憧憬
【備考】2009年9月15日に読み終えた。

2009/09/12

動物農場(ジョージ・オーウェル 高島文夫訳)☆


【タイトル】動物農場
【著者名】ジョージ・オーウェル
【訳者名】高島文夫
【発行年月日(初版)】1972年8月30日
【登場人物の年齢層】-
【概略】一従軍記者としてスペイン戦線に投じた著者が見たものは、スターリン独裁下の欺瞞に満ちた社会主義の実態であった…。寓話に仮託し、怒りをこめて、このソビエト的ファシズムを痛撃する。(「BOOK」データベースより)
【感想】朝日新聞の別刷りの書評を読んでこの本を読もうと思い、今回図書館より借りて読んでみた。
 表題作である「動物農場」は寓話の形式をとったスターリン体制に対する強烈な風刺である。私は今までなにかを風刺した作品を読んだ記憶があまりないので、風刺というものがどのような感じの物語なのかイマイチよく分からなかったが、今回この作品を読んだことで風刺というものがどういうものか理解した。
 まず最初に読んでいて思ったことは、独裁体制がどのようにしてでき、いかに恐ろしいものであるかということである。特に罪を名乗り出た動物がその場で処刑される場面は引きずり込まれると同時に身の毛もよだつ思いがした。
 また、革命というものの安易さである。今まで私は民衆による革命は必ずといってもいいほど状況がよくなり、よい結果をもたらすと思っていたが、「動物農場」のように結果的に大して変わらないということもあり得るのだな、と思った。また、今まで優秀なリーダーが一人いれば国は必ずいい方向に導いてくれる、という考えが自分の中にあった。しかし、考えてみれば甚だ愚考で、そのような状況は独裁政治につながりやすいことも分かった。考えを改めなければ。
 前述の通り、「動物農場」は強烈な風刺である。各々の登場人物は実在の人物に当てはめることが出来る。例えば革命を予言したメージャー爺さんはレーニン、革命後に独裁者となったナポレオンはスターリン、元々の農場の持ち主であるジョーンズ氏はロシア皇帝…と。また、違った対応関係も当てはめることが出来ると解説で述べられている。
 私はスターリン体制の時のロシアの状況をよく知らないのだが、解説によってある程度把握した。この先この時代のロシアの情勢を学習することでより一層楽しめると思う。

 ロシア革命を風刺した極めて秀逸な寓話であった。解説に「動物農場」後を描いたジョージ・オーウェルの作品に「1984」があるらしいので、読んでみたいと思う。解説にジョージ・オーウェルは行動の作家であると述べられている。現に、自分が現地に赴き見聞きし体験した事を物語にしている。この本にもいくつか収録されていた。その点でもすごいな、と思った。
【ランク】7.5+α
【読書中メモの総覧】独裁の恐怖 身の毛もよだつ 行動の作家
【備考】2009年9月11日に読み終えた。再読を促す。