2010/06/13

明日の話はしない(永嶋恵美)


【タイトル】明日の話はしない
【著者名】永嶋恵美
【発行年月日(初版)】2008/10/30
【登場人物の年齢層】子供~大人
【概略】「第一話 小児病棟」のわたし…難病で何年も入退院を繰り返して人生を悲観する小学生。「第二話 一九九八年の思い出」のわたし…男に金を持ち逃げされ一文無しになったオカマのホームレス。「第三話 ルームメイト」のわたし…大学を中退してから職を転々とし、いまはスーパーのレジ打ちで糊口をしのぐ26歳の元OL。「最終話 供述調書」のわたし…郵便局を襲撃し、逮捕された実行犯。「明日の話はしないと、わたしたちは決めていた」で始まる三つの別々な話が、最終話で一つになるとき―。(「BOOK」データベースより)

 明日が見えず希望のない話が4つ続いている。最後の話でそれぞれの話を一つの小説に帰着させている。

 この手の小説でここまで希望のないモノを読んだのは久しぶりだと思う。アマゾンのレビューに「もう少し希望を持たせてもよかった」というレビューをしている人がいたが、生半可な希望を加えて中途半端に終わる小説はいくらでもある。だったら徹底して希望を排除し絶望のみ描いたほうがオリジナリティを出せるしいいと考える。この小説は見事希望を排除している。

 ただ細部でリアリティを損なっている感じもする。「ケイ」「エフ」「爆弾魔」といったチープな名前はリアリティが乏しく小説の品質を落としている印象だった。もう少し徹底してリアリティを追求すれば良かったと思う。
【ランク】6
【読書中メモの総覧】なし

2010/06/08

闇の子供たち(梁 石日)


【タイトル】闇の子供たち
【著者名】梁 石日
【発行年月日(初版)】2002年11月20日
【登場人物の年齢層】子供と大人
【概略】世界中の富裕層の性的玩具として弄ばれるタイの子供たち。アジアの最底辺で今、何が起こっているのか。モラルや憐憫を破壊する資本主義の現実と人間の飽くなき欲望の恐怖を描く衝撃作!(出版社/著者からの内容紹介)
【感想】「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」より。読んで鬱になるような本を求めて読み始めた。
 タイにおける児童売買に携わる者とそれに反対する団体を描いた物語である。性の道具として強要される子供たちの描写は生々しく、非情で過酷な世界が描かれている。外国人と子供によるセックスの描写はリアルで、こんな世界があるのかと衝撃だった。
 しかし読後に気持ちが鬱になるかと言えばならなかった。社会啓発の要素が強すぎる所以だと思うが、今回の「鬱になる小説を読む」という目的は達成されなかった。物語としても、児童売買の実態報告的な要素が強く、ストーリーとしても楽しめるようなものではなかったが、このような世界を知ったことは有益になったと考えよう。
【ランク】5.5
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2010/06/08に読み終えた。

2010/05/04

クロイツェル・ソナタ 悪魔(トルストイ/原卓也訳)


【タイトル】クロイツェル・ソナタ 悪魔
【著者名】トルストイ
【訳者名】原卓也
【発行年月日(初版)】1974年6月10日(文庫)
【登場人物の年齢層】成人
【概略】嫉妬のため妻を殺した男の告白を通して、惨劇の理由を迫真の筆に描き、性問題に対する社会の堕落を痛烈に批判した『クロイツェル・ソナタ』、実在の事件に自身の過去の苦い経験を交えて懺悔の気持をこめて書いた『悪魔』。性的欲望こそ人間生活のさまざまな悪や不幸、悲劇の源であるとして、性に関するきわめてストイックな考えと絶対的な純潔の理想とを披瀝した中編2作。(「BOOK」データベースより)
【感想】図書館のリサイクル本にあったのがきっかけ。 トルストイといえば「戦争と平和」が有名で、この本を読み始めたときも「戦争と平和を書いた著名な人だからこの本も結構難解なんだろうな」という気持ちで読み始めたが、読み終えてみると結構シンプルな話で難解さはあまりなかったように思う。クロイツェル・ソナタのほうは強烈な嫉妬のあまり妻を殺してしまう男の物語で、そこからトルストイのストイックな思想が書かれている。最初の方はかなり厳しい禁欲思想が教訓的に展開されているので少々だるいが、後半になると男の回想に入り、男が妻を刺してしまう場面は結構どきどきした。 『悪魔』も、結婚した良家の息子が昔深い仲となった女に対する欲望に葛藤を描いた作品である。こちらも最終的に主人公は自殺し、性的欲望は破滅を招くことを謳っている。この『悪魔』はトルストイ自身の経験と実在の事件を元に描かれているので葛藤の心情部分に真実味を帯びているようだった。
 当然の事ながら時代設定は古く、元の作品は1899年に出版されている。この文庫本もハードカバーの方は1952年に出版されている古さである。

 ただ文字サイズが小さいので中篇と書いてあるが量的には一冊の本に相当すると思う。(戦争と平和に比べたら圧倒的に少ないが…)

 『トランスポーター3』において、刑事が「ロシア文学は暗いものばかり」的なコメントをしていたのを思い出した。確かに自分が今まで読んだものはどれも暗いものばかりだなあ。この『悪魔』も、書き上げた後にトルストイは別のバージョンを考えていたそうで、それは昔の女を射殺したあと裁判で精神異常が認められ、最後には無惨なアル中患者になるというものである。こちらはさらに鬱で暗い。ロシア文学を読むときはある程度心構えが必要である。
【ランク】(6.5)
【読書中メモの総覧】
【備考】2010年4月に読み終えた。

2010/04/16

閉店時間(ジャック・ケッチャム、金子浩訳)


【タイトル】閉店時間
【著者名】ジャック・ケッチャム
【訳者名】金子 浩
【発行年月日(初版)】2008/7/30
【登場人物の年齢層】成人
【概略】9.11テロの傷痕残るニューヨーク。街では閉店間際のバーを狙った武装強盗が相次いでいた。バーテンダーのクレアは、恋に破れた哀しみを胸に抱えつつ今日も店に出る。自分を待ちうける運命も知らず…。未練を残して別れた恋人たちを襲う悪夢を描く、ブラム・ストーカー賞受賞の表題作をはじめ、意想外の結末へと読者を導く怒涛のサスペンス「ヒッチハイク」、傑作ノワール・ウエスタン「川を渡って」等、ケッチャム文学の最高峰を示す中篇四本を厳選して収録。加速する狂気に貴方はついていけるか。(「BOOK」データベースより)
【感想】ダヴィンチより。
 ダヴィンチにも掲載されていたと思うが、紹介文に「加速する狂気にあなたはついていけるか?」と書かれてあり、その言葉に惹かれて読み始めたのだが、正直そこまで狂気は感じられなかった。「閉店時間」は普通の強盗に巻き込まれたカップルの話だし、「ヒッチハイク」もあんまり狂気は感じない。ただ「雑草」は繰り返し強姦を行うカップルの話でそこそこ狂気は感じられたが、文章があまりに淡々、即ち物語の進行が記載されているだけで面白みは微妙である。(ストイックな文章がケッチャムの特徴とかなんとか解説に書いてあるので致し方ないが)最後の中篇は序盤で飽きて読むのをやめてしまった。
 加速する狂気という文句に惹かれて読んだが残念ながら期待に応える作品ではなかった。
【ランク】5+α
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2010/04/13に読み終えた。

2010/04/13

禿鷹狩り(逢坂剛)


【タイトル】禿鷹狩り
【著者名】逢坂剛
【発行年月日(初版)】2006年07月15日
【登場人物の年齢層】成人
【概略】ヤクザすら好人物に感じられる悪徳刑事・禿富鷹秋に巧妙に仕掛けられた執拗な罠。ヤクザも南米マフィアも手玉にとる男の前に最強の刺客が現れる…! 息を呑む展開のシリーズ完結編(「MARC」データベースより)
【感想】 禿鷹シリーズのラスト。
 今回は禿鷹クラスの悪徳刑事である石動と、それの相方である嵯峨のコンビとの禿鷹、渋六の人間、そしてクローズアップされた御子柴との対決をメインに描かれている。特に、石動という刑事は強烈で、禿鷹との狐と狸の化かしあいという表現は非常に的を射ていると思う。
 ラストでプロローグの話が誰だったのかが明かされているらしいが、正直よくわからなかった。がん宣告されているというのがヒントになっていると思うのだが、イマイチよくわからん。多分もう一度読み直せば分かるような気もするが、そんな気力は沸いてこない。
 個人的には本作品で急激にクローズアップされた御子柴刑事が気になる。禿鷹の悪事に手を貸した御子柴のその後が気になるが、外伝での活躍に期待したい。
禿鷹シリーズの外伝が別冊文藝春秋で連載されているらしい。禿鷹の死後が描かれているので、早く単行本になってほしいものだ。
【ランク】5.5
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2010/04/05に読み終えた。

紅~醜悪祭~上・下(片山憲太郎)














【タイトル】紅~醜悪祭~ 上・下
【著者名】山本憲太郎
【絵】山本ヤマト
【発行年月日(初版)】2007/11/30・2008/04/30
【登場人物の年齢層】高校生・他
【概略】上巻:新米揉め事処理屋の高校生・紅真九郎。紫と初めて迎えるクリスマスを目前に、銀子からもたらされた凶報。それは、真九郎の目標である柔沢紅香の死。信じられない真九郎は、その真偽を確かめる決意をする。そんな中、新たな依頼人が現れる。瀬川静之、6歳。姉の行方を探してほしいと言う彼女の依頼を受けた真九郎は早速動き出す。守るべきもの、進むべき道、そして生きる意味。真九郎の心が向かう未来は…。(「BOOK」データベースより)
 下巻:聖夜目前の新米揉め事処理屋・紅真九郎。最年少の依頼人・瀬川静之からの依頼を発端に、麗宇商会最高顧問“弧人要塞”星噛絶奈に遭遇し、すべての鍵を握る彼女から情報を得ようとしたが、最強かつ最凶の絶奈を前に、真九郎はなす術がない。悩み抜いた末に、真九郎はある奇策に出る。そして迎えたクリスマスイブ。真九郎のもとへ、絶奈から「イベント」の招待が来る。クリスマスプレゼントを待つ紫と、姉の帰りを待つ静之。二人の願いを叶えるため、そして自らの誇りのため、真九郎はその地へ向かう決意をするが…。(「BOOK」データベースより)
【感想】紅シリーズ第三作目。
 感想は「えっ」である。こんな終わりかたでいいのかというような終わりかたで、呆気にとられてしまった。悪宇商会の最高顧問である星噛との対決が始まった、という終わりかたは打ち切りになった漫画の最終回レベルの酷さだ。紫が近くにいるときのチートレベルの強さも相変わらずであるし、嫌な終わりかたである。
 ただ、前二作はおわりという文が入っていたのに対し、今回は上巻にも下巻にもおわりという文は見当たらなかったので、これから続くという事もなくはないと思うのだが、だとしたらあの下巻の巻末付録的なオマケはなんなのだろうかともかく、次回作がもしあるのなら早くでてほしいし、この終わりかたでおわりであるなら読むべきではなかった。
 
 どうやらアマゾンのレビューを読む限り公式ファンブックにこの醜悪祭のオチ的なものが掲載されているらしい。仕方がないが買うか・・・・
【ランク】3(暫定)
【読書中メモの総覧】なし

2010/04/09

紅~ギロチン~(片山憲太郎)


【タイトル】紅~ギロチン~
【著者名】片山憲太郎
【絵】山本ヤマト
【発行年月日(初版)】2006/07/30
【登場人物の年齢層】高校生、他
【概略】駆け出しの揉め事処理屋・紅真九郎にきた一通の電話。それは、商売敵である悪宇商会からの勧誘だった。一度は応じた真九郎だが、最終課題に出されたのは、なんと暗殺計画への参加。標的となるのは、一人の病弱な少女。真九郎は当然のごとく拒否し、交渉は決裂。そして暗殺阻止へと動き出す。しかし、踏み込んだ闇はあまりに深かった。立ち塞がる悪宇商会の殺し屋・斬島切彦。その恐るべき刃は、真九郎と紫の仲までも引き裂き、さらなる窮地へと追い詰める…。(「BOOK」データベースより)
【感想】紅シリーズ二作目。
 「ギロチン」と呼ばれる殺し屋、斬島切彦が登場するこの作品は、前作にも増して真九郎の心情描写が濃いように感じる。途中、紫との約束を反故にして紫に嫌われたあとの場面は、真九郎はかなり陰鬱になっていたし、また、斬島切彦に足蹴にされたときも同様である。しかしやはり最終的に紫と和解する場面はほのぼの…というよりはホッとする感じだ。
 ただ、真九郎が自身の体内に埋め込まれた「角」的なモノを使用したときと、通常の状態のときの能力の差はチートレベルである。これはあまりいただけないなと思う。ありがちな戦闘モノと大差ないからだ。この点も次作ではどのようになっているかが楽しみである。

 やっぱりライトノベルは読みやすく面白いなあと思う。今までほとんど読んだことなかったがさっくり読める小説としてこれからも時々読んでみようか。
【ランク】6.5
【読書中メモの総覧】なし
【備考】2010/04/09に読み終えた。